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2014年6月30日

海外E-wasteリサイクル現場における重金属および希少金属の環境中濃度と健康リスク

特集 アジアのE-wasteリサイクルを通じた資源と有害物質の管理
【シリーズ重点研究プログラムの紹介:「循環型社会研究プログラム」から】

滝上 英孝

 開発途上国へは、日本をはじめ世界各国から中古および使用できなくなった電気電子機器製品が多く流入しています。それら製品の再利用および有価金属回収を目的としたE-wasteリサイクル現場においては、作業環境や周辺環境の重金属汚染の実態が明らかになってきています。人(作業者)の健康影響に与える曝露媒体のひとつとしては、E-wasteの解体・破砕等の工程で発生する重金属を高濃度に含んだダストが挙げられています。また、E-waste中には重金属以外に希少金属(希少な非鉄金属を指し、耐腐食性や高機能性といった有用性をもつ)も使用されていますので、希少金属の関連環境媒体中での濃度を調べ、健康リスクを評価することは新しい研究トピックとして注目されています。本稿では、フィリピンのE-wasteリサイクル現場の周辺土壌および作業環境ダスト(2010年の調査時に採取したもの)の重金属9種(ヒ素(As), カドミウム(Cd), 銅(Cu), コバルト(Co), 鉄(Fe), マンガン(Mn), ニッケル(Ni), 鉛(Pb), 亜鉛(Zn))および希少金属2種(銀(Ag), インジウム(In))の濃度レベルの評価を行いました。E-wasteリサイクル現場としては、正規企業の工場(フォーマルサイト)および非正規・小規模のジャンクショップ(インフォーマルサイト)をそれぞれ複数箇所調査しました(図1)。

図1
図1 フィリピンで調査を行ったE-wasteリサイクルサイト
左:フォーマルサイトにおける製品解体の様子、右:インフォーマルサイトにおける基板解体の様子

 図2(a)にフォーマル、インフォーマルサイトにおける周辺土壌、作業環境ダスト中の金属元素の濃度レベルを示します。濃度レベルの低い元素(CdやAsといった数~数十mg/kgといった濃度レベルのもの)から高い元素(Feのような104 mg/kg = 1%程度のレベルのもの)の順にデータを並べています。フォーマル、インフォーマルサイトともに作業環境ダスト中の8元素(As, Cd, Ag, Ni, Nn, Pb, Cu, Fe)の濃度は周辺土壌に比べて統計的に有意に高く、2元素(Co, Mn)については、有意差は認められませんでした。一方、Inはフォーマルサイトの土壌およびダストのみで検出され、その濃度は10~100 mg/kgの範囲にありました。一方、こういった金属元素の検出濃度の高低だけでは、土壌やダストがE-wasteリサイクル活動によって汚染されているのかどうかは分かりません。E-wasteリサイクルによる汚染のないと考えられる対照土壌試料や地殻元素濃度との相対比較を行って判断する必要があります。図2(b)に金属元素濃度の地殻濃度比を示します。地殻濃度比はMnについて1と定めて(基準化といいます)、他の元素での地殻濃度比が計算されています。地殻濃度比が1に近ければ、リサイクル等の人為活動の影響を受けていないという目安になります。図を見るとFeやCo、Asについては地殻濃度比が1付近に分布しており、リサイクル活動の影響を受けていないことがうかがえます。その一方、CuやPb、Znといった元素については、フォーマル、インフォーマルサイトの土壌、ダストの多くで10倍から1,000倍程度の濃度比となっており、人為的なリサイクル活動の影響を受けていることが分かります。AgおよびInといった希少金属についてもダストに濃縮さ れていることが分かりますが、Inについてはフォーマルサイトの作業環境ダストのみから特異的に検出されています。In は液晶ディスプレイや太陽光パネルの透明電極に使用されており、高価な元素として知られていますが、インフォーマルサイトにおいてはその回収が難しいため、余り取り扱われていないものと考えられます。

図2 フォーマル/インフォーマルサイトにおける作業場ダスト及び敷地内土壌中の11金属元素濃度(a)と地殻濃度比(b)

 このようなリサイクル現場の作業環境において作業者がダストを摂取(経口摂取)した際の健康リスク評価について、試算を行ってみました。アメリカ環境保護庁(USEPA)において経口摂取しても健康リスクを及ぼさない量(oral reference dose; RfD)が金属元素別に定められており、実際の作業者の推定摂取量とRfDの比を取ってハザード比(hazard quotient)を求めてその大小でリスク評価を行います。例えばハザード比が1より小さければリスクは十分小さく、1~5であれば低リスク、10を超えれば高リスクといったカテゴリー分けになります。インフォーマル、フォーマルサイトの成人作業者でハザード比を各金属元素(Ag, As, Cd, Co, Cu, Mn, Ni, Pb, Zn)について求めて合計すると、その値はそれぞれ作業者群の中央値として1.4、4.6という値になりました。もし、子供が就労していた場合は、ハザード比の合計値は大人よりも1桁高くなり、健康リスクは相当に高いことになります。また、意外と思われるかも知れませんが、インフォーマルサイトよりもフォーマルサイトにおける作業環境ダスト摂取による健康リスクが高い傾向にあり、閉鎖性の高い建屋での管理を行っているフォーマルサイトでは作業環境ダストにおける金属元素濃度が高くなる可能性があります。したがって、換気空調や粉じん防護等の作業環境対策が重要になると考えられます。ハザード比によるリスク評価には含めていませんが、今回の調査でフォーマルサイトから検出されたInは前述したように液晶等に汎用されており、インジウム・スズ酸化物(ITO)として使用されています。このITOは強い肺毒性があり、間質性肺炎や肺線維症を引き起こすことが知られており作業者の死亡例も報告されています。Inは、ハザードの高い希少金属として、今後もそのリサイクル挙動や環境動態、曝露に焦点を当てた研究を進めてゆく必要があると考えられます。

 本稿では、開発途上国(フィリピン)での調査例を挙げて、電気電子機器製品のリサイクル活動に伴う局所的な金属類の環境汚染について触れました。重点研究プログラムを通じて、ベトナムなど他国にも調査フィールドが広がっており、金属類に限らず、臭素系難燃剤等も含めた分析体制で取り組むとともに、時系列的な物質代替や廃製品の越境移動といった観点も意識して研究を実施しています。最後に金属類について結言すれば、従来型の重金属類による汚染以外に、汎用される製品のハイテク化等により、E-wasteリサイクル現場で扱われ、問題となる金属元素群が今後大きく変化する可能性もあり、国内外ともに電気電子機器製品のライフサイクルを見据えた調査が継続的に必要であると考えられます。なお、本成果は「循環型社会研究プログラム」プロジェクト1「国際資源循環に対応した製品中資源性・有害性物質の適正管理」と分野横断型提案研究「汎用IT製品中金属類のライフサイクルに着目した環境排出・動態・影響に関する横断連携研究」に関連して得られたものであることを記します。

(たきがみ ひでたか、資源循環・廃棄物研究センター ライフサイクル物質管理研究室 室長)

執筆者プロフィール

滝上 英孝

 受験期の知識が30代で「リセット」され、マネージメント業務が多くなった現在は、20-30代で身に付けた実験研究者としての感覚が薄らぎつつある・・・。第3の中興の波が必要だと、同世代で話し合っているところ。興味と熱意があればできるはず、手を動かす時間をしっかり確保していきたい。

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