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2019年7月16日

共同発表機関のロゴマークの画像
太古の世界で私達の共通祖先が繁栄を勝ち得た仕組みが明らかに!~「クロロフィルを安全に食べられる」よう進化した生物~

(環境省記者クラブ、環境記者会、文部科学記者会、茨城県庁記者クラブ、筑波研究学園都市記者会、京都大学記者クラブ、福井県教育・スポーツ記者クラブ同時配付)

          令和元年7月16日
   独立行政法人 国立科学博物館
  学校法人金井学園 福井工業大学
国立研究開発法人 海洋研究開発機構
 国立研究開発法人 国立環境研究所
    学校法人立命館 立命館大学
 

   独立行政法人国立科学博物館(館長:林良博)、学校法人金井学園 福井工業大学(学長:掛下知行)などが中心となる国際研究チームにより、動物や植物などの共通祖先(真核生物の共通祖先)は、地球の生態系を支える光合成で使われるクロロフィルを安全に食べられるように進化した生物だったことが明らかになりました。
   本研究の成果は、令和元年7月16日付でスプリンガー・ネイチャーから刊行される微生物生態学分野の国際誌、The ISME Journalに公開されます。

【背景】

光合成に不可欠な色素であるクロロフィル(葉緑素とも呼ばれる)は、他の生物に「食べられる」と活性酸素を発生するため、食べた側に致命的なダメージを与える危険な物質でもあります(光毒性注1)。食べる側にはクロロフィルを無毒化して光毒性に対抗する仕組みをもつことが不可欠です。

【本研究の成果】

クロロフィルの「無毒化の仕組み」を発見
クロロフィルをもつ光合成生物である藻類を食べている広範な真核生物注2)が、細胞内に取り込んだクロロフィルを「CPE」と呼ばれる活性酸素が発生しない安全な物質に転換する仕組みをもっていることを突き止めました(図1)。

「無毒化の仕組み」は普遍的
現在の地球上には、非常に多様な真核生物注2)が存在していますが、クロロフィルをCPEに「無毒化」する仕組みはほとんど全ての系統群に共通して存在することも明らかになりました。これは、現在の多様性の起源となった祖先的な真核生物の段階(10~18億年前の原生代に存在)で、既に「藻類を安全に食べることのできる仕組み」が確立していた証拠です。

「無毒化の仕組み」の獲得は、酸素に満ちた世界への究極の一歩
約6億年前に地球の大気や海洋が酸素で満たされるようになると、クロロフィルをもつ「猛毒生物」としての藻類が大繁栄しました。すると、それまでは藻類を食べて細々と生きていた我々真核生物の共通祖先注3)が、クロロフィルを無毒化できないライバルたちを差し置いて台頭しました。こうして酸素に満ちた太古の環境で繁栄を勝ち得たことで、私達を含む、現在に続く多様な真核生物の礎になったと考えられます(図2)。

本研究は、JSTさきがけ/CREST(藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出;平成24~29年度)、JSPS科研費JP15H05607, JP16K14813, 26840123(研究期間:平成27~29年度)などによって実施されました。

本件についての問合せ
独立行政法人 国立科学博物館
  筑波研究施設 研究活動広報担当:稲葉 祐一
研究員:谷藤吾朗(動物研究部 海棲無脊椎動物研究グループ)
〒305-0005 茨城県つくば市天久保4-1-1 TEL:029-853-8984  FAX:029-853-8998
E-mail:t-shuzai@kahaku.go.jp
国立科学博物館 筑波研究施設HP http://www.kahaku.go.jp/institution/tsukuba/index.html(国立科学博物館のサイトに接続します)
担当研究員:福井工業大学 教授 柏山祐一郎
〒910-8505 福井県福井市学園3-6-1 TEL: 0776-29-2686 E-mail: chiro@fukui-ut.ac.jp

参考図

藻類を捕食した細胞模式と明視野および蛍光顕微鏡像の画像
図1.藻類を捕食した細胞模式と明視野および蛍光顕微鏡像 左)餌藻類が消化される過程で、クロロフィルがCPEへ転換される。中央)クロロフィルの緑色が失われ、右)赤いクロロフィルの自家蛍光が失われていく。
地球大気の酸素濃度と生物出現の相関図の画像
図2.地球大気の酸素濃度と生物出現の相関図 上)過去30億年間の地球大気の酸素濃度、下)生物の祖先系統の出現時代。本研究ではクロロフィルを有して酸素を発生する藻類と真核生物の“食べる食べられるの関係”がこの時代に既に成立していたことを示した。この酸素環境下で藻類を食べることのできた真核生物の子孫が多様化し、現在のように繁栄した。

用語解説

注1)クロロフィルには光と酸素の存在下で一重項酸素と呼ばれる強力な酸化剤を発生させる作用があり、これが無差別に細胞内の有機分子を破壊する。
注2)細胞に細胞核をもつ生物。動植物を含む肉眼で見える生物のほぼすべてを含むが、その多様性のほとんどは肉眼で見えない単細胞の生物たちである。
注3)現存する全真核生物の共通祖先は、“原初の真核生物”とは区別される。10~18億年前に存在していた(が絶滅してしまった)多様な真核生物の中で、現存する真核生物の祖先のみが生き残り、子孫を繁栄させることができた。

掲載論文

【題 名】Taming chlorophylls by early eukaryotes underpinned algal interactions and the diversification of the eukaryotes on the oxygenated Earth

【著者名】Yuichiro Kashiyama, Akiko Yokoyama, Takashi Shiratori, Sebastian Hess, Fabrice Not, Charles Bachy, Andres Gutierrez-Rodriguez, Jun Kawahara, Toshinobu Suzaki, Masami Nakazawa, Takahiro Ishikawa, Moe Maruyama, Mengyun Wang, Man Chen, Yingchun Gong, Kensuke Seto, Maiko Kagami, Yoko Hamamoto, Daiske Honda, Takahiro Umetani, Akira Shihongi, Motoki Kayama, Toshiki Matsuda, Junya Taira, Akinori Yabuki, Masashi Tsuchiya, Yoshihisa Hirakawa, Akane Kawaguchi, Mami Nomura, Atsushi Nakamura, Noriaki Namba, Mitsufumi Matsumoto, Tsuyoshi Tanaka, Tomoko Yoshino, Rina Higuchi, Akihiro Yamamoto, Tadanobu Maruyama, Aika Yamaguchi, Akihiro Uzuka, Shinya Miyagishima, Goro Tanifuji, Masanobu Kawachi, Yusuke Kinoshita, and Hitoshi Tamiaki
【掲載誌】The ISME Journal
doi: 10.1038/s41396-019-0377-0

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