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2006年12月28日

循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究(終了報告)
平成13〜17年度

国立環境研究所特別研究報告 SR-75-2006

1 研究の背景と目的

表紙
SR-75-2006 [6.3MB]

 循環型社会の形成を進めることは我が国の大きな課題の一つであるが、その健全な展開のためには、技術的、制度的な多くの課題を克服していかなければならない。国立環境研究所では、第1期中期計画(2001年4月から5年間)において、循環型社会における適正な物質循環や廃棄物管理のあり方を研究・提案するために政策対応型調査・研究「循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する研究」を実施してきた。

 本研究では、循環型社会への転換を支援するための評価手法や基盤システム整備に関する研究を一つの核に据えた。また、廃棄物の発生から再資源化・処理及び処分に至るまでの様々な局面での廃棄物問題について、対策技術やシステムの開発、評価を行うことも重要な研究対象である。さらに、有害物質の管理やリスク管理を念頭においた現象解明から制御に関する研究もカバーして、研究を進めた。環境保全を図りつつ、一次資源利用と廃棄物発生を抑制し、再利用する物質の流れを創り上げ、適正な廃棄物の管理を行うことを研究の目標とした。

2 報告書の要旨

本研究は、次の4つのサブテーマについて実施した。

(1)循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究

 循環資源をはじめとする物質のフローを経済統計と整合的に記述・分析し、循環の度合いを表現する手法、資源の循環利用促進による環境負荷の低減効果を総合的に評価する手法、地域特性にあった循環システムの構築を支援する手法、および循環資源利用製品の安全性を評価する手法を開発し、これらを循環型社会への転換に係る諸施策の立案・実施・達成状況評価の場に提供することにより、社会を構成するさまざまな主体による効果的な「循環」の実践の促進に貢献することを目指した。

(2)廃棄物の循環資源化技術、適正処理・処分技術及びシステムに関する研究

 資源の循環及び廃棄物の適正処理・処分のための技術・システムおよびその評価手法を開発し、循環型社会の基盤となる技術・システムの確立に資することを目的として、熱的処理システムの循環型社会への適合性評価手法の開発、有機性廃棄物に関する発生構造・需給要件及び物質フローの把握と循環資源化要素技術及びシステム評価手法の開発、最終処分場用地確保と容量増加に必要な技術・システムの開発、海面最終処分場のリスクや環境影響のキャラクタライゼーション、処分場の安定度や不適正サイトの修復必要性を診断する指標やそれらを促進・改善する技術の評価手法の開発を行った。

(3)資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究

 循環資源や廃棄物に含有される有害化学物質によるリスクを総合的に管理する手法として、バイオアッセイ手法を用いた包括的検出手法、臭素化ダイオキシン類を的確に把握できる検出手法とその制御手法、不揮発性物質を系統的に把握する検出手法、有機塩素系化合物を含有する廃棄物等の分解手法を開発した。

(4)液状廃棄物の環境低負荷・資源循環型環境改善技術システムの開発に関する研究

 し尿や生活雑排水等の液状廃棄物に対して、地域におけるエネルギー消費の低減および物質循環の効率化を図るため、バイオエンジニアリングとしての浄化槽や土壌・湿地等の生態系に工学を組み込んだエコエンジニアリング等を活用し、開発途上国も視野に入れつつ、窒素、リン除去・回収型高度処理浄化槽、消毒等維持管理システムの開発、浄化システム管理技術の簡易容易化手法の開発、開発途上国の国情に適した浄化システム技術の開発、バイオ・エコエンジニアリングと物理化学処理を組み合わせた技術システムの開発、地域特性に応じた環境改善システムの最適整備手法の開発を行った。


 以下、サブテーマ毎に主な成果を要約する。

サブテーマ1:循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究

1) マテリアルフロー分析、産業連関分析を軸として、マクロなモノの流れに関する勘定の枠組みを構築するとともに、建設鉱物、プラスチック、木材、自動車、家電製品などいくつかの物質、製品を対象としたマテリアルフローの把握を行った。また、廃棄物の発生・処理・処分量に関するデータ整備を行い、これを用いて、廃棄物やその他の環境負荷の発生構造について分析を行った。これによって、最終需要がどのような環境負荷と結びついているのかを明らかにするとともに、家計消費支出を例として最終需要を変化させることによってある特定の環境負荷を最小化することが、他の環境負荷にどのような影響を及ぼすかを検証した。これらの成果は、現在の廃棄物対策、温暖化対策等の異なる環境施策が、相反する最終需要の形態を誘導するものでないかの確認や、複数の環境対策の促進に効果的な需要誘導策を検討する際の基礎情報となるものである。

図1 リサイクルによる環境負担発生量の変化(ケミカルリサイクルの変化例)

2) ライフサイクルアセスメント(LCA)を用いて、その他プラスチック製容器包装のリサイクル技術の評価を行った。代表的な技術について、文献調査、ヒアリング・現地調査を実施し、これらの情報をもとに、その他プラスチック製容器包装の分別収集やケミカルリサイクルを対象として、その環境負荷低減効果を評価した。例えば、ケミカルリサイクルを行った場合のCO2排出量は、発電効率10%の焼却発電の場合に比べて、収集時のその他プラスチック製容器包装1kg当たり2kg前後削減されると推定された(図1)。LCA関連の成果は、「循環型社会の形成に向けた市町村の一般廃棄物処理の在り方について」の検討に活用されるとともに、容器包装リサイクル法における再商品化手法の見直しのための知見として活用された。なお、関連する情報を「プラスチックと容器包装のリサイクルデータ集」としてまとめ、ホームページで公開している。

3) 循環資源の利用促進に向けて、個別リサイクル法の制度評価やリサイクル法に共通する課題抽出、資源循環・廃棄物管理のための環境会計の開発、アジアを中心とした国際リサイクルに関する情報収集について調査研究を行った。このうち、家電リサイクル法の制度評価に関しては、国立環境研究所研究報告R-191-2006「家電リサイクル法の実態効力の評価」に詳細をまとめており、家電リサイクル法の見直しのための知見として活用された。

4) 産業廃棄物処理施設の立地に影響する要因の分析や、産業廃棄物処理実態調査の結果を利用した、生産地域と処理地域の関係の把握を行った。また、ものの輸送効率に関わる包括的な指標として、ネットの輸送という評価体系を作成した。本指標を適用し、埼玉県の産業廃棄物輸送量の削減可能性について定量的に示した。“同一とみなせる物の双方向輸送をなくす”という極めてシンプルな概念でまとめられており、循環型社会の担い手である消費者や生産・処理業者、あるいは政策担当者自らが、輸送の効率化に向けた改善策を立案・実行することを支援するものである。

5) 廃棄物溶融スラグを対象として、土木資材として有効利用する際に懸念される有害物質の長期的な溶出リスクの評価方法を検討した。長期的な環境曝露により生じる物性劣化・化学変化(乾湿繰り返し、凍結融解繰り返し、炭酸ガス曝露)を模擬する促進試験や、路盤材やコンクリート成型利用など利用形態を考慮した試験などを、実試料を用いたデータ集積に基づいて提案した。その一部は、環境側面から整備されつつある日本工業規格(JIS)において基礎情報として活用された(その後、JIS K 0058(スラグ類の化学物質試験方法、JIS A 5031(一般廃棄物、下水汚泥又はそれらの焼却灰を溶融固化したコンクリート用骨材) JIS A 5032(一般廃棄物、下水汚泥又はそれらの焼却灰を溶融固化したコンクリート用骨材)として成果の一部が反映された)。

サブテーマ2:廃棄物の資源化・適正処理技術及びシステムに関する研究

1) 環境負荷物質の物理化学パラメータに関する研究においては、臭素系難燃剤類、多環芳香族および重金属類の物質挙動予測に必要な物性データの蓄積とともにパラメータを推算するためのモデルを開発し、ダイオキシン類への適用可能性や資源化・処理工程における挙動予測を含め、環境負荷低減に役立つ物性データベースおよび物性推算モデルを整備した。

2) 廃木材等の廃棄物から水素ガス等を回収する熱分解ガス化-改質プロセスの開発を行い、ニッケル系改質触媒と酸化カルシウムの複合的な適用が、水素や一酸化炭素等の主要ガス回収という廃棄物の再生資源化はもとより、実用上の制約となる硫化水素、タール分、ベンゼン等の環境負荷物質の生成・排出抑制にも有効であることを明らかにした。また、同プロセスでのダイオキシン類の生成および除去特性を温度との関係で明らかにした。

3) 食品廃棄物のゼロエミッション型乳酸発酵システムを構築した。ベンチスケール発酵実験を行い、バイオプラスチックの原料としての乳酸回収量、乳酸回収後の培養液量および発酵残渣量の物質収支を明らかにするとともに発酵液は乳酸回収した後再び培養調整液として再利用し、廃液を全く出さない乳酸発酵プロセスを確立した。一方、発酵残渣は、市販配合飼料に対して10%を配合した給餌実験をとおして養豚飼料としての基本特性を把握し、飼料としての有効性を明らかにした。

4) 海面処分場と陸上処分場のLCI(ライフサイクルインベントリ)を比較することにより環境負荷の特徴を明らかにした。海面最終処分場のライフサイクルでみた環境負荷は、最終処分場や積出基地建設、廃棄物搬入が高い比率を占めるのに対して、陸上処分場では水処理の比率が高いという特徴が明瞭となった。エネルギー消費、CO2およびSOx排出量は、海面処分場(SCP工法)と陸上処分場とで同程度であったが、NOx排出量については陸上処分場を上回った。海面処分場(DCM工法)は、エネルギー消費、CO2、NOxおよびSOx排出量の全てが陸上処分場を上回る結果となった。

5) 模擬埋立槽により安定型処分場における高濃度硫化水素の発生メカニズムの解明に取り組み、有機物の供給がない廃石膏ボードの埋め立てのみでも可能性があること、およびそれらが水で飽和された状態にあることが高濃度ガス発生の条件であることを明らかにした。また防止対策として、埋め立て後の硫化水素発生能を判定する簡易な試験方法を提案した。さらに、既存安定型処分場での高濃度の硫化水素発生の防止対策として内部保有水を貯留させないことを示した。本結果については、国立環境研究所研究報告R-188-2005「安定型最終処分場における高濃度硫化水素発生機構の解明ならびにその環境汚染防止対策に関する研究」に詳細をまとめた。(図2)

図2
図2 硫化水素発生メカニズム解明のためのライシメータ実験結果 (左:有機物供給のあるプラ+石膏ボード、右:有機物供給の無い プラ+石膏ボード)

6) 安定化診断指標として挙げられている埋立地ガスについて、地表面温度分布やレーザーメタン検出器を利用した簡易かつ迅速な地表面放出量の計測法を開発した。また、電気・電磁気力を用いた物理探査により、埋立地内部の水の動きや廃棄物質の変化を、地表面より非破壊でモニタリングする手法を示した。一方、生物学的な安定化診断指標として分子生物学的手法を使って覆土層内のメタン酸化細菌群の種構成および埋立層内の微生物群集構造を提示した。さらに、場内観測井および埋設センサーによる埋立層内の安定化進行の自動監視システムを開発した。

サブテーマ3:資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究

1) ダイオキシン類の毒性発現機構を利用したバイオアッセイを適用し廃棄物等に含まれる有害物質を包括的に測定監視する手法を開発した。Ahレセプター結合細胞系アッセイ(DR-CALUX)やイムノアッセイは、GC-MSによる個別定量分析法と併用すること、あるいは化学分析前のプレスクリーニングに用いることにより、分解制御対象の廃棄物や分解途中の試料、環境試料などに含有されるダイオキシン様物質を包括的に検出、把握する上で有用な方法となることが分かった。これらの成果により、生物検定法は、廃棄物焼却炉からの排出ガスやばいじん、焼却灰などに含まれるダイオキシン類の測定公定法として認められた。

2) 有機臭素系難燃剤や臭素化ダイオキシン類を対象として、廃棄物の熱処理過程・破砕圧縮過程・溶融処理過程における発生挙動や排出抑制効果などの把握、化学分析とバイオアッセイの両面からの評価、物理化学パラメーターの実測、インベントリ推定などを行った。その結果、有機臭素化合物は制御燃焼や溶融処理により分解されること、また非意図的に生成した臭素化ダイオキシン類も二次燃焼や排ガス処理によって分解除去されることを検証できた(図3)。ごみ破砕及び圧縮過程では、いずれの工程でも排ガス処理とともに濃度が大きく低減し、粒子態成分の除去が排ガス中の有機臭素化合物やダイオキシン類縁化合物の制御につながることが示された。

図3
図3 臭素化ダイオキシン類などのラボスケール燃焼過程における排出係数の推移

3) PBDEs(ポリ臭化ジフェニルエーテル:代表的な有機臭素系難燃剤)の排出に関して、粗大ごみ破砕施設、焼却施設、家電リサイクル施設など計12プロセスについての実測や溶出試験やチャンバー放散試験など模擬実験を行い、PBDEs製品のライフサイクル毎に活動量と排出係数を推定し、その積和として排出インベントリ求めた。さらに、排出インベントリを環境動態モデルへの入力として一般環境中濃度を予測し、環境モニタリングデータとの比較により、ライフサイクル全体でのインベントリの妥当性を検討し、大気へのPBDEs排出量は数トン/年程度と推定した。

4) 有機成分をLC/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)により包括的に分析する方法を検討した結果、LC/MSでは検出できない成分あるいは検出感度が低い成分への対応として、有機塩素化合物の包括的検出法とLC/MSの新イオン化法(スプレーグロー放電イオン化法)及び、MS/MSスペクトルの精密質量を元素組成推定に活用するアルゴリズムを開発した。PRTR候補113物質(分子量410以下)について本法を適用したところ,その93%は5以下の候補に絞り込むことが可能となった。この方法の活用を推進するため、煩雑な演算部分をソフトウェア(MsMsFilter)として開発し、ホームページから公開した。

5) PCBの安全で安定的な分解手法を開発、確認する目的で、PCBを金属ナトリウム分解法、Pd/C触媒分解法、紫外線分解法、水熱分解法の四種の方法で分解し、分解経路を確定、分解機構を解明した。その結果、塩素置換位における選択性、総塩素数による反応性の違い、連続した3置換塩素の反応性など、各分解法の特徴を明らかにした。また、実処理施設への情報提供を念頭にPCB異性体混合時の分解実験を行い、混合時においても単一異性体の分解機構で説明できることを明確にした。さらに金属ナトリウム分解において生成する重合物など反応生成物中に有機塩素化合物が存在するか否かについて各種の試験を行い、PCB処理後は有機塩素化合物が残存していないことを確認した。これらの成果は、国による廃PCB処理事業における安全・安心な処理システムへ活用された。

サブテーマ4:液状廃棄物の環境低負荷・資源循環型環境改善技術システムの開発に関する研究

1) リン資源の国内におけるフロー解析の結果、水域へのリン排出量のうち40%以上がし尿、生活雑排水等の生活系液状廃棄物として排出されていることが明かとなった。さらに、第5次水質総量規制で打ち出された窒素・リン対策の強化等も踏まえ、浄化槽からのリン排出低減化とリン資源回収の両立可能な高度処理技術として、リンに対する吸着選択性の高い吸着担体を合成し、吸着脱リン法の開発を行った。吸着脱リンシステムの実証試験としての長期モニタリングの結果、各家庭の家族構成、生活様式などにより浄化槽に流入する水量負荷が異なる場合においても、処理水質としてT-P1mg・l-1を長期にわたって達成可能なことが明らかとなった。

図4 脱離率の向上とリン回収の効率化のための2段階離脱方式の確立

2) リン回収のための吸着剤からのリン脱離性能および吸着剤再生性能の評価を行い、本システム全体の効率化に寄与する脱離率の向上化および脱離液中のリンの高濃度化を図るため、回収した破過吸着担体の2段階脱離法を構築し、リン脱離効率および回収リン純度95%以上の高効率の回収結果を得ると同時に、コスト削減を図ることが可能となった(図4)。


3) 液状廃棄物処理において、窒素除去過程の律速因子となる硝化細菌を検出可能なモノクローナル抗体を得ることに成功し、プロセスの維持管理にフィードバック可能な多検体同時迅速定量化手法の開発を行った結果、従来、MPN法等の培養に基づく公定法では数十日から数ヶ月を要していた測定時間を約1日と飛躍的に短縮することが可能なことを明らかにした。

4) タイ王国において、クウシンサイおよびクレソンを用いた湖沼水の汚濁浄化能力等の実験を行い良好な結果を得ると同時に、特にCODについて高い除去速度が得られた。水耕栽培浄化システムにおいては、浄化能と市場的な価値がバランスした植物種の栽培により、資源化と浄化の両立が可能であることを明らかにした。

5) エネルギー回収と適正処理を両立するためのUSBメタン発酵と窒素除去が可能なヘドロセラミックス担体生物膜処理槽を組み合わせたUSB・生物膜循環法の開発を行い、循環システムを最適化することでメタン転換率を維持しつつ、窒素除去の高度化を図ることが可能であることがわかった。また、水素エネルギー資源化システムの開発として、水素・メタン二段発酵プロセスの検討を行い、食品廃棄物の選定とともに、加温処理や酵素処理などによる可溶化処理と糖量増加が重要になることを明らかにした。

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