
「妊娠期のパーソナルケア製品使用と男児新生児の泌尿器異常との関連」について
(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)
令和2年2月14日(金) 国立研究開発法人国立環境研究所 エコチル調査コアセンター コアセンター長 山崎 新 次長 中山祥嗣 |
本研究の成果は、令和2年1月23日付で、Elsevierから刊行される生殖毒性学分野の学術誌「Reproductive Toxicology」に、オンライン掲載されました。
1. 発表のポイント
2. 研究の背景
エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露※2が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度より全国で10万組の親子を対象として開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。母体血や臍帯血、母乳等の生体試料を採取保存・分析するとともに、参加する子どもが13歳になるまで追跡調査し、子どもの健康に影響を与える環境要因を明らかにすることを目的としています。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。調査期間は5年間のデータ解析期間を含み、令和14(2032)年度までを予定しています。
先天性腎尿路異常は、低・異形成腎、腎無形成、後部尿道弁や様々な下部尿路障害による閉塞性尿路疾患などを含む病態で、小児慢性腎臓病あるいは末期腎不全の最大の原因と考えられています。海外の調査では、発症頻度は500人に1人とされていますが、日本では十分な統計が取られていません。また、原因についても特定されていません。
フタル酸、パラベン類、トリクロサンなどは、内分泌かく乱作用を有する疑いがあるとされていますが、プラスチックや化粧品、抗菌石けんなどのパーソナルケア製品に含まれています。これらの物質は、動物の体内で性ホルモン作用を示したり、性ホルモンの分泌を抑制したりする作用を示す疑いがあり、新生児の腎尿路系発達を妨げる可能性が指摘されています。
そこで本研究では、母親の妊娠中のパーソナルケア製品(抗菌石鹸、制汗剤、香りの強い化粧品、マニキュア、ヘアカラー、日焼け止め)の使用頻度と新生児の先天性腎尿路系異常との関連について疫学的手法を用いて調べました。
3. 研究内容と成果
本研究では、妊娠女性約10万人のデータを使用しました。解析対象は、調査への同意を撤回した人、多胎、死産、流産有無のデータ、パーソナルケア製品(抗菌石鹸、制汗剤、香りの強い化粧品、マニキュア、ヘアカラー、日焼け止め)の使用頻度およびこれらの関連因子のデータに欠測がある人を除いた86,899人としました。
新生児先天性腎尿路系異常と診断されたのは215名で、1,000人に2.5人という頻度でした。母親のパーソナルケア製品(抗菌石鹸、制汗剤、香りの強い化粧品、マニキュア、ヘアカラー、日焼け止め)の使用は、妊娠中後期に実施された自己記入式質問票への回答を使用しました。妊娠中(妊娠してから質問票に答えるまで)に、エコチル調査が対象としたパーソナルケア製品をどれか1点以上使用していた母親は、77,722人(89%)でした。
これまでの研究で、新生児先天性腎尿路異常の関連因子として報告されているものには、妊娠女性の年齢、喫煙、飲酒、葉酸の摂取、母親の腎疾患の既往歴、児の性別などがあります。とくに、母親の年齢は、パーソナルケア製品(抗菌石鹸、制汗剤、香りの強い化粧品、マニキュア、ヘアカラー、日焼け止め)の使用状況と先天性腎尿路異常の発生の両方に関連していると考えられ、本研究では統計学的に母親の年齢の影響を取り除いた上で解析しました。
その結果、妊娠中に抗菌石鹸、制汗剤、香りの強い化粧品、マニキュア、ヘアカラー、日焼け止めのどれか1点を使用した群では、全く使用しなかった群に比べて、先天性腎尿路異常の発生頻度は0.48〜1.23倍でした。2点使用した群では0.60〜1.46倍、3点以上使用した群では0.44〜1.06倍でした。このように、母親の妊娠中のパーソナルケア製品使用と新生児先天性腎尿路異常との間に、関連は見られませんでした。
4. 今後の展開
本研究は、妊娠中のパーソナルケア製品の使用と新生児の先天性腎尿路異常との間の関連を検討した初めての研究です。
今回の調査の結果、妊娠中のパーソナルケア製品の使用と新生児の先天性腎尿路異常との間に関連は見られませんでした。しかし本研究では、パーソナルケア製品(抗菌石鹸、制汗剤、香りの強い化粧品、マニキュア、ヘアカラー、日焼け止め)の使用は、質問票を用いて調査しました。そのため、使用頻度が必ずしも正確に測れていない可能性があります。
5. 用語解説
※1 パーソナルケア製品:日用品のうち、身体の手入れに用いられる製品。エコチル調査では、パーソナルケア製品として、抗菌石鹸、制汗剤、香りの強い化粧品、マニキュア、ヘアカラー、日焼け止めを対象とし、それぞれの製品について、妊娠してから質問票に答えるまでの使用頻度を4段階(よく使った、ときどき使った、あまり使わなかった、使用しなかった)で調査しました。
※2 ばく露:私たちが化学物質などの環境にさらされること。
6. 発表論文
題名(英語):The association between gestational use of personal care products and neonatal urological abnormality at birth: The Japan Environment and Children’s Study
著者名(英語):Yukiko Nishihama1, Nozomi Tatsuta2, Miyuki Iwai-Shimada1, Kunihiko Nakai2, Takahiro Arima2, Ikuma Fujiwara3, Nobuo Yaegashi2, Ayano Takeuchi4, Shoji F. Nakayama1, and the Japan Environment and Children’s Study Group5
1 西浜柚季子、岩井美幸、中山祥嗣:国立環境研究所
2 八重樫伸生、仲井邦彦、有馬隆博、龍田希:東北大学大学院医学系研究科
3 藤原幾磨:東北大学大学院医学系研究科(現、仙台市立病院)
4 竹内文乃:国立環境研究所、慶應義塾大学
5 グループ:コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンター長
掲載誌:Reproductive Toxicology
DOI:https://doi.org/10.1016/j.reprotox.2020.01.005【外部サイトに接続します】
7. 問い合わせ先
国立研究開発法人国立環境研究所
環境リスク・健康研究センター
エコチル調査コアセンター
次長 中山祥嗣
305-8506 茨城県つくば市小野川16-2
電話:029-850-2885
E-mail:jecs-pr(末尾に@nies.go.jpをつけてください)