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2013年7月31日


災害環境研究の推進
- 震災からの復興と環境創造のために

研究をめぐって

東日本大震災では、科学と社会の関係が問われました。
災害という緊急状況のなかで、国立環境研究所は、科学的信頼性を確保しつつ、研究から得られた知見を分かりやすく、かつ速やかに社会へ伝えようとの強い認識のもと、今後も災害環境研究を推進します。

これまで日本では

 環境と災害に関する研究については、もともと環境保全対策と防災・減災対策という個別課題として取り扱われてきました。それに対して、同時に取り扱うべきとの動きが、主に2つの理由から、2000年代初めから起こりました。1つは、第2期科学技術基本計画において環境分野での自然共生型流域圏研究の重要性が指摘されたことです。自然と共生するということには、自然環境から『恵み』を享受するとともに、『災い』とも賢く付き合うという二面から考えることが必要です。流域圏での生態系の基盤サービス(例えば水循環調整など)と調整サービス(自然災害制御など)を活用(環境保全対策)しながら、防災・減災対策につなげる技術開発がなされました。

 もう1つは、1995年阪神・淡路大震災、2004年新潟県中越地震、2004年インドネシアスマトラ島沖地震津波災害の経験から、国土環境づくりと防災・減災対策事業がともに社会基盤づくりの範疇で、同時に扱うことで効率的な事業が可能となり、ひいては地域社会づくりに貢献できるというものでした。具体的な動きとしては、例えば2004年には徳島大学に環境防災研究センターが設置されました。また、2006年には土木学会から『環境と防災連携型の技術と制度』という報告書が出されています。そこでは、自然災害(地震・津波、豪雨災害、洪水災害など)に対する防災対策の環境への影響と、逆に環境対策の防災への影響が整理されており、両者の連携の重要性が指摘されています。健康リスク・生活環境・生態系保全の観点からの環境保全対策と自然災害に対する防災・減災害対策との折り合いをつける研究・技術開発は現在も続けられています。

 技術体系、制度とも東日本大震災までに現場に活かすところまでは至らなかったきらいがありますが、今後とも検討が必要な研究分野です。しなやかな回復力(レジリエンス)という考えも自然との共生に内在されており、生態系サービスの利用に活かされています。

これから国立環境研究所では

 東日本大震災、および福島第一原子力発電所の事故は、通常の廃棄物とは性状が大きく異なる廃棄物の処理技術、放射性物質の環境動態と環境影響、大規模災害時の環境健康リスクなど、今後研究すべき多くの課題が存在することを浮き彫りにしました1)。その結果、社会基盤の復興、地域社会の再生などに取り組む上で、環境研究に対する期待が大きく広がりました。  

 国立環境研究所は、災害と環境の問題の全体構造を理解した上で研究を推進することが必要と考え、2012年4月「災害環境研究の俯瞰」という文章を公表しています(図9)2)。さらに、それに基づく研究成果も公表しています3)。一方、環境基本法が改正され、環境法体系の下で放射性物質による環境の汚染の防止措置が行えることが、明確に位置付けられました。これらを踏まえ、今後実施する東日本大震災等の災害と環境に関する研究を次に紹介します。

図9
図9 「災害環境研究の俯瞰」の枠組み
 東日本大震災における解決すべき社会的な課題を「震災からの復興と環境創造」とし、「環境の実態把握と影響評価」と「震災からの復興と安全・安心な社会の創造」を被災地が必要とする主要な2つの取組としています。それに対し6つの課題群を、さらにそれ以下に詳細な研究課題と構造化しています。
(災害環境研究の俯瞰(枠組み)(原図2)を修正)

1.放射性物質に汚染された廃棄物などの処理処分技術・システムの確立

 東日本大震災による災害廃棄物や、福島第一原子力発電所の事故による汚染廃棄物等処理処分技術・システムの確立に関する研究課題です。現地調査、基礎実験、フィールド実証試験およびシステム分析などにより、①各処理処分プロセスにおける放射性物質の基礎物性・挙動メカニズム、②処理処分・再生利用技術、③測定分析・モニタリング技術、④関連処理施設の長期的管理・解体等技術、⑤廃棄物等の資源循環システムにおけるフロー・ストックと放射性物質の統合的管理方策、⑥円滑な処理処分に資するマネジメント・リスクコミュニケーション手法などに関する調査研究を実施します。

2.放射性物質の環境動態解明、被ばく量の評価、生物・生態系への影響評価

 放射性物質により汚染された地域の環境を回復し、安全・安心に生活できる環境を取り戻すための科学的情報をさらに蓄積し、発信するために、①放射性物質の広域的な実態と動態を把握する環境動態計測、②放射性物質の大気、河川・海洋などの動態を把握・予測するための環境モデリング、③放射性物質の人への被ばく量を評価する推定モデルを構築するヒト曝露解析、④放射性物質による生物・生態系影響調査、を実施します。

3.災害後の地域環境の再生・創造などに関する調査・研究の推進

 東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故から2年を経過し、被災した都市や地域においては復旧から復興、環境創造への遷移に伴い、対処すべき環境研究の課題がますます増加しています。また、電力需給のひっ迫に対応できる環境とエネルギーとが表裏一体となった地域再生の将来見通し並びに温暖化対策の将来見通しを示すため、①被災地域の特色・特徴を活かしながら温暖化対策面からの検討も加え、②環境・資源・エネルギー地域循環システムと環境未来都市のあり方とその実現方策の策定に資する研究を推進します(図10)。

図10
図10 復興都市づくりの課題と展開
 未曾有の被害をもたらした東日本大震災からの復興には、これまでの災害復興とは比較にならないほどの長い時間と労力を要することが予想されますが、経済成長が見込めない人口減少下において外部のみに依存したプロセスでは、地域・都市の復興を持続的に推進していくことは困難であり、復興プロセス自体が、地域の特性と地域資源を効率的に活用する内生的な復興のための仕組みを持つことが不可欠となります。

4.地震・津波災害に起因するさまざまな環境変化とその影響に関する調査・予測

 東北地方太平洋沖地震が引き起こした津波は、化学物質等を含んだ海底堆積物を被災地に拡散させ、逆に陸上施設の破壊により流出した石油・化学物質等を海底に沈降・堆積させました。また、地震動は地形を変化させ、人と生物の生息環境を大きく変えました。こうした災害に起因するさまざまな環境変化が人と生物・生態系にもたらした影響を評価するとともに、その将来を予測します。

引用文献

  • 1) 災害環境研究への取り組み:国立環境研究所ホームページ
  • 2) 災害環境研究の俯瞰:国立環境研究所編
  • 3) 東日本大震災後の災害環境研究の成果

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