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2016年1月28日

「内湾生態系における放射性核種の挙動と影響評価に関する研究」国立環境研究所研究プロジェクト報告 第111号の刊行について(お知らせ)

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時配付)

平成28年1月28日(木)
国立研究開発法人国立環境研究所
 編集委員会委員長:三枝 信子
 同事務局(環境情報部情報企画室)
   室長:阿部 裕明

 国立環境研究所では、「国立環境研究所研究プロジェクト報告」第111号として、「内湾生態系における放射性核種の挙動と影響評価に関する研究(分野横断型提案研究)平成24~26年度」を刊行します。
 本報告書は、2011年3月11日の東日本大震災に付随して起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故後の東京湾における放射性核種による汚染について、放射性セシウム(134Cs及び137Cs)を中心に、その空間分布と経時変化を取りまとめたものです。放射性セシウムは、大気からの直接降下・沈着のほか、関東平野を含む流域への沈着後の河川等を経由した流入と福島沿岸水に含まれる核種の親潮(外洋水)からの供給を通じて東京湾の水質と底質を汚染したものの、底棲魚介類の汚染は軽微に留まったことが明らかになりました。

1 「内湾生態系における放射性核種の挙動と影響評価に関する研究(分野横断型提案研究) 平成24~26年度」 の概要

(1)背景

 2011 年3 月11 日の東日本大震災に伴い、東京電力福島第一原子力発電所で3基の原子炉で核燃料がメルトダウンする重篤な事故が起き、大量の放射性核種が大気及び隣接海域に放出され、東京湾の流域においても広範囲に降下して環境を汚染しました。その結果、大気経由での直接的な沈着と流入河川等を通じた放射性核種の東京湾への流入、そして魚介類の汚染が懸念されました。

 このような背景を踏まえ、東京湾内湾部及び流入河川における原発事故由来の放射性核種の分布と経時変化、並びに東京湾の底棲魚介類における放射性セシウム(134Cs及び137Cs)濃度の経時変化を明らかにするため、本研究を実施しました。また、東京湾の底棲魚介類群集の経年変化と潜在的な影響因子に関する解析も行いました。

(2)結果

①放射性セシウムの空間分布・経時変化
 放射性セシウムは、大気からの直接降下・沈着のほか、関東平野を含む流域への沈着後の河川等を経由した流入と福島沿岸水に含まれる核種の親潮(外洋水)からの供給を通じて東京湾の水質と底質を汚染したものの、底棲魚介類の汚染は、その検出頻度と濃度の点で、軽微に留まったことが明らかになりました。

 また、放射性セシウムの海水中濃度、底質中濃度、主要な餌生物である多毛類(ゴカイなど)中濃度から、今後、東京湾における魚介類の放射性セシウムによる汚染レベルが顕著に進行する可能性は低く、経時的にさらに低減するとみられました。

 一方、今後の課題として、底質が介在した魚介類汚染(底質-底棲生物-魚介類による放射性セシウムの取り込みと排出)の機構解明や、筋肉中放射性セシウム濃度が他の魚介類よりも相対的に高い傾向にある板鰓類(サメ・エイ類)における放射性核種の取り込みと排出に関する知見の獲得が挙げられます。

②底棲魚介類群集の質的、量的変化
 本研究では2003年以降の東京湾における底棲魚介類群集の質的及び量的変化も解析し、2003年以降はスズキ及び板鰓類(サメ・エイ類)という大型魚類が優占する一方、甲殻類など小~中型魚種が低水準かつ減少傾向にあることが明らかとなりました。また、2010年以降にはコベルトフネガイという二枚貝の急激な増加が生じ、生物相の単調化の進行が懸念されます。解析の結果、東日本大震災時の津波及び原発事故由来の放射性核種が東京湾の底棲魚介類の群集構造を変化させることはなかったと推察されました。

 本研究成果が、原発事故由来の放射性核種による環境汚染の実態解明、その問題解決や改善に向けた一助になることを祈念するとともに、放射性核種による海洋汚染と潜在的な生物影響に関する学術研究の進展に資することを期待します。

● 本報告書の研究課題の課題代表者
  堀口 敏宏(ほりぐち としひろ)
   国立環境研究所環境リスク研究センター 生態系影響評価研究室長

2 本報告書の閲覧及び問い合わせ先

●「国立環境研究所研究プロジェクト報告書」は、研究所ホームページで閲覧できます。
   http://www.nies.go.jp/kanko/tokubetu/index.html

●本報告書についてのお問い合わせ先:国立環境研究所 環境情報部情報企画室出版普及係
  (TEL: 029-850-2343  E-mail: pub@nies.go.jp)

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