ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2012年8月31日

埋立地メタン

●特集 アジアの廃棄物循環● 【環境問題基礎知識】

石垣 智基

 ごみ埋立地において発生するガスは「埋立地ガス」と呼ばれます。途上国のごみ投棄地でも、現在の日本のように高度な技術が投入された埋立地でも、埋立地ガスに含まれる成分に大きな違いはありませんが、その含まれる割合(濃度)は大きく異なります。たとえば、埋立地に覆土がなされると、埋立地ガス中に含まれる硫化水素濃度は増加します。硫化水素は、濃度が低くても悪臭成分として問題になりますが、濃度が高くなると健康や生命に影響を与える中毒成分として、より厳重な管理が必要になります。

 ごみの埋立地に覆土を施工する理由としては、ごみが腐ることで生じる悪臭の防止、害虫(ハエ・ゴキブリ)や害獣(ネズミ)の発生防止、埋立後の土地活用、などが挙げられます。覆土によって衛生状態は改善されますが、ごみが大気と遮断されることでごみの腐るスピードが遅くなるほか、生物化学反応の経路が変化します。環境安全性を確保するための覆土や遮水構造の高度化により、埋立地は一般環境から厳重に隔離され、それに伴って埋立地ガス中の成分も変化しています。

 埋立地ガス中に含まれるメタン(通称、埋立地メタン)も埋立地管理の高度化によって濃度が増加する成分の一つです。メタンは、酸素の不足した還元的な雰囲気において、有機物の生物分解により発生する成分で、ごみがどの程度分解されたか、という埋立地の状態を知る指標として、昔から観測されています。埋立地の維持管理をやめることができる条件は厳しく規定されているのですが、埋立地ガスの発生量が増加していないこともそれを満たす条件の一つとなっており、その証明のためにも埋立地メタンの濃度や発生量を調べる必要があります。

 メタンは天然ガスにも含まれる成分で、可燃性という性質もあります。爆発や火災の防止という観点からは、埋立地メタンの漏洩や拡散については厳重な管理が必要です。埋立地メタンが大気中に無秩序に放出されることのないよう、埋立地にはガス排除のための管が敷設され、周辺の土地利用や気象条件(風速や風向き)を考慮した上で安全に排除することが求められます。一方で、可燃性の性質をエネルギー源として捉えて、有効利用策を検討する事例も増えています。ガスエンジンや燃料電池に供給して発電する方法や、直接熱源として利用する方法などが挙げられますが、エネルギー効率などの技術的な問題、供給先の特性などの社会的な問題、埋立地メタンの不安定性(ごみ分解に応じて発生量が変わる、枯渇までの期間が短い)の問題もあいまって、埋立地ガス有効利用の普及は限定的です。日本では、焼却などによって無機化されたごみが埋め立てられているという特性もあって、エネルギー価値を生み出すほどの埋立地メタンは発生しません。

 さらに、メタンは温室効果ガスとしての性質も持っているため、近年はその管理に向けた取り組みも求められています。1kgあたりのメタンの温室効果は二酸化炭素の21倍とも言われており、世界的に見ればごみ埋立地は水田、畜産業と並ぶ主要な排出源のひとつです。埋立地メタンは、ごみ分解の進行度評価、爆発等の危険性、エネルギーとしての価値などを背景に、他の温室効果ガスの排出源と比べると観測の実績値は多いといえます。しかしデータは蓄積されていても、排出量の推計や将来予測に用いるには精度が低く、測定項目も不足していることから、新たな観点での観測体系の見直しが必要になってきています。

 このように、同じ埋立地メタンでも、評価する観点が変わればとりまく世界が変わってしまいます。しかも、ごみの種類・土地利用・気象条件などの地域特性、埋立地の構造や管理方法の技術特性、そして埋め立てからの経過年数という時間軸に応じてその評価は絶えず変化するのです。温室効果、エネルギー、安全性などの多面的な面をもつ「埋立地メタン」には、ごみを埋め立てることの歴史的な必然性と、現代において求められる埋立地のありかたを改めて考える必要性が凝縮されている、と言えるでしょう。

(いしがき とものり、資源循環・廃棄物研究センター
廃棄物適正処理処分研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール:

石垣  智基

陸上競技をやめてから15年で35kg成長しました。白は膨張色なので日焼けした方が良いと言われる一方で、現場調査で日焼けして帰ってくると黒豚と呼ばれています。ビール断ちが根本的なソリューションであるのは理解しているのですが、実践は難しそうなので、せめて麦芽率を下げる努力をしています。最近はヒューガルテンの生が飲めるお店が多くなって嬉しい限りです。

関連新着情報

関連記事