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2020年11月12日

温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)による観測データの解析結果(二酸化炭素、メタン、一酸化炭素)と一般提供開始について

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配布)

令和2年11月12日(木)
国立研究開発法人 国立環境研究所 地球環境研究センター
 衛星観測センター/GOSAT-2プロジェクト
  観測センター長 松永 恒雄
  主任研究員   吉田 幸生
  主任研究員   森野 勇
  主任研究員   齊藤 誠
  主任研究員   丹羽 洋介
  主任研究員   大山 博史
  主任研究員   八代 尚
  高度技能専門員 亀井 秋秀
  高度技能専門員 河添 史絵
  高度技能専門員 佐伯 田鶴
 

   平成30年に打ち上げ、昨年2月より定常運用を行っている温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)の観測データをフルフィジクス法で解析し、全球の二酸化炭素とメタン、一酸化炭素の濃度分布が得られましたので、その初期検証結果と合わせてご報告します。なお二酸化炭素については初めての報告となります。
   今後、関連文書などの準備が整い次第、当該データおよびプロキシ法によるデータの一般提供を開始します。
※フルフィジクス法とプロキシ法は衛星データから温室効果ガス濃度を推定する手法ですが、雲・エアロソルなどの影響の取り扱い方が違います(前者は物理モデルを用いて厳密に取り扱う一方、後者は仮定をおいて近似的に処理します。)。二酸化炭素濃度の導出は前者のみ可能です。
 

   温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)は、環境省、国立研究開発法人国立環境研究所(NIES)及び国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)(以下、「三者」という)の3機関による共同プロジェクトで、2009年に打ち上げ、現在も運用中の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の後継機です。

   GOSAT-2は2018年10月29日にJAXA種子島宇宙センターからH-IIAロケット40号機により打ち上げられました。その後、11月5〜6日にはGOSAT-2に搭載された雲・エアロソルセンサ2型(CAI-2)の初画像が、12月12〜14日には温室効果ガス観測センサ2型(FTS-2)の初データが取得され、これらの観測機器が正常に動作していることが確認されました。さらに、2019年2月1日には、GOSAT-2は定常運用に移行し、CAI-2及びFTS-2による全球観測を開始しました。なおCAI-2およびFTS-2が観測した光の強度データはGOSAT-2 レベル1Bプロダクトとして、2019年8月5日より以下のウェブサイトにて一般提供中です。

   国立環境研究所 GOSAT-2 Product Archive (https://prdct.gosat-2.nies.go.jp

   また2019年7月5日には、NIESによりプロキシ法を用いたメタンと一酸化炭素濃度の初解析結果が発表されました(https://www.nies.go.jp/whatsnew/20190705/20190705.html)。

   本発表ではフルフィジクス法を用いた二酸化炭素とメタン、一酸化炭素の濃度の解析結果についてご報告いたします。特に二酸化炭素については今回が初めての報告となります。フルフィジクス法は大気中の光の伝搬を物理モデルに従って解くものであり、GOSAT-2では二酸化炭素、メタン、一酸化炭素などのカラム平均濃度の同時推定に利用しています。なお現在運用中の温室効果ガス観測衛星のうち、これら三種類の気体のカラム平均濃度の同時推定が可能な衛星はGOSAT-2のみです。

   GOSAT-2 FTS-2データからフルフィジクス法で求めた2019年5月の二酸化炭素、メタン、一酸化炭素のカラム平均濃度の全球分布図を図1に示します。

GOSAT-2 FTS-2データからフルフィジクス法で求めた2019年5月の二酸化炭素、 メタン、一酸化炭素のカラム平均濃度の全球分布図(クリックして拡大表示)
図1 GOSAT-2 FTS-2データからフルフィジクス法で求めた2019年5月の二酸化炭素(左上)、メタン(右上)、一酸化炭素(左下)のカラム平均濃度の全球分布図(2.5度グリッド)。

   2019年5月のGOSAT全大気平均二酸化炭素濃度(https://www.gosat.nies.go.jp/recent-global-co2.html)が当時過去最高の409.4 ppmであったことから分かるように、2019年5月時点では北半球中高緯度の森林の光合成がまだ活発になっておらず、ロシアやカナダなどの二酸化炭素濃度は高い状態でした。一方メタンについては中国南東部やインド北部、欧州/アフリカ北部、北米東部でやや高い値でした。さらにGOSAT-2で初めて測定する一酸化炭素についてはインド〜東南アジア北部〜中国、アフリカ中央部、メキシコやその風下で高くなっていることがわかります。インドから中国にかけての高濃度は化石燃料と木炭などのバイオ燃料の利用が、アフリカ中央部とメキシコの高濃度は森林火災が原因と考えられます。

   図2はGOSAT FTSデータからフルフィジクス法で求めた2019年5月の二酸化炭素とメタンのカラム平均濃度の全球分布図です。GOSAT-2ではGOSATと比べてデータのある領域が海域や雲の多い熱帯域も含めて大幅に広がっていることがわかります。また二酸化炭素などの濃度を導出できた観測データの数はGOSATが11000個強であるに対し、GOSAT-2では25000個程度とおよそ2.3倍になっています。これは主にFTS-2の新機能である「インテリジェントポインティング」(FTS-2の内部に設置されたカメラを用いて雲のある領域をリアルタイム識別し、FTS-2の観測場所を雲のない場所に自動的に切り替える機能)や衛星進行方向のポインティング可能角度範囲の拡大(海域のサングリント観測に関係する)の効果と考えられます。

GOSAT FTSデータからフルフィジクス法で求めた2019年5月の二酸化炭素とメタンのカラム平均濃度の全球分布図(クリックして拡大表示)
図2 GOSAT FTSデータからフルフィジクス法で求めた2019年5月の二酸化炭素(左)とメタン(右)の カラム平均濃度の全球分布図(2.5度グリッド)。

   GOSAT-2 FTS-2データからフルフィジクス法で求めた二酸化炭素などの濃度については、地上に設置された高分解能フーリエ変換分光計ネットワーク(TCCON)のデータを用いた検証を進めています。2019年3月〜5月のFTS-2データ(陸域)について23箇所の地上データと比較したところ(図3)、二酸化炭素には4.1±3.8 ppm(1.0 ± 0.9 %)、メタンには5.5±17.4 ppb(0.3 ± 0.9 %)、一酸化炭素には21.2 ± 9.0 ppb(22.7 ± 9.7 %)の差がある(いずれもGOSAT-2の値の方が大きい)ことがわかりました。これらの数値はGOSATの打上げ2年後のデータより良いものの、GOSAT FTSの最新プロダクト(V2.90、二酸化炭素は-0.35 ± 2.19 ppm(-0.1 ± 0.6 %)、メタンは2.2 ± 13.4 ppb(0.1 ± 0.7 %))には達しておらず、今後の改善が求められるところです。

GOSAT-2 FTS-2データからフルフィジクス法で求めた二酸化炭素とメタン、 一酸化炭素のカラム平均濃度とTCCONデータとの比較の図。
図3 GOSAT-2 FTS-2データからフルフィジクス法で求めた二酸化炭素(左上)とメタン(右上)、一酸化炭素(左下)のカラム平均濃度(縦軸)とTCCONデータ(横軸)との比較(2019年3〜5月)。

   今回ご報告したフルフィジクス法による結果については、プロキシ法による結果とともにGOSAT-2レベル2プロダクトとして、温室効果ガス観測技術衛星シリーズ研究公募(第1回および第2回)において提案が採択された研究者や協定を締結した研究機関に提供中です。またいずれについても検証結果を含む関連文書などの用意が整い次第、GOSAT-2 Product Archiveからの一般提供も新規に開始します。
   また今後は気体濃度導出精度のさらなる向上や濃度データ数の増加等に取り組むとともに、正味フラックスのインバージョン解析とレベル4プロダクトの作成、人為起源排出量の推定なども進め、GOSATの成果を発展的に継承していく予定です。

NIESの担当者について

・FTS-2データを用いた二酸化炭素及びメタン、一酸化炭素のカラム平均濃度の推定アルゴリズムの開発:吉田 幸生 主任研究員
・定常処理によるプロダクト作成:亀井 秋秀 高度技能専門員、河添 史絵 高度技能専門員
・地上観測データを用いた検証:森野 勇 主任研究員
・カラム平均濃度推定に用いる先験値の作成:齊藤 誠 主任研究員、丹羽 洋介 主任研究員、佐伯 田鶴 高度技能専門員
・欧米の類似衛星データとの比較:大山 博史 主任研究員
・一酸化炭素濃度分布の分析:八代 尚 主任研究員
・進行管理等:松永 恒雄 観測センター長

謝辞

・カラム平均濃度推定に用いる二酸化炭素とメタン濃度の先験データ作成に際し、NICAMと呼ばれる数値シミュレーションモデルを用いて大気輸送の計算を行いました。また、この計算において、気象庁の海洋二酸化炭素フラックスデータ(1)や長期再解析データJRA-55(2)等を用いました。またこれら数値シミュレーションに関する研究開発は(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20172001)により実施しました。また計算には国環研スーパーコンピュータシステム(3)を使用しました。
(1): https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/mar_env/results/co2_flux/animation/index.html【外部サイトに接続します】
(2): https://jra.kishou.go.jp/JRA-55/index_ja.html【外部サイトに接続します】
(3): https://www.cger.nies.go.jp/ja/supercomputer/
・本報道発表における二酸化炭素、メタン、一酸化炭素のカラム平均濃度の推定方法の開発には、環境省のGOSAT-2研究用計算設備(RCF2)を使用しました。
https://www.gosat-2.nies.go.jp/jp/about/rcf2/
・本報道発表における地上観測データとは、地上に届く際に大気中微量成分による吸収を受けた太陽光を地上設置のフーリエ変換分光計を用いて観測し、温室効果ガスを中心とする全球観測網(全球炭素カラム観測ネットワーク、Total Carbon Column Observing Network、TCCON)で取得されたデータのことです。今回はカリフォルニア工科大学のCaltechDATAによって運用されているTCCONデータアーカイブ(https://tccondata.org【外部サイトに接続します】)からデータを取得しました。

問い合わせ先

国立環境研究所 衛星観測センター
   観測センター長 松永 恒雄
   GOSAT-2プロジェクト
   (029-850-2731/2966、gosat-2-info末尾に@nies.go.jpをつけてください)

用語等

・衛星プロダクト:
地球観測衛星の観測データ等は一般に、レベル1プロダクト(生データ相当)、レベル2プロダクト(物理量に変換したもの)、レベル3プロダクト(レベル2プロダクトに対し時空間平均処理等を施したもの)、レベル4プロダクト(レベル1〜3プロダクトをモデル等に入力して作成したもの)に大別して配布される。GOSAT-2 FTS-2のレベル2プロダクトは二酸化炭素、メタン、一酸化炭素のカラム平均濃度等である。またGOSAT-2のレベル4プロダクトは二酸化炭素およびメタンの正味吸収排出量および3次元濃度分布である。
・プロキシ法:
プロキシ(Proxy)法は気体のカラム平均濃度の導出において、雲・エアロソルの散乱に起因する光路長変動の影響を低減する手法の一つ。吸収帯が近接した二種の気体に対して雲・エアロソル無の仮定のもとで算出したカラム平均濃度の比を利用するもので、雲・エアロソルの影響が多少大きい場合でも比較的精度のよいカラム平均濃度が得られる。その一方で導出対象気体に制約があり、二酸化炭素には適用できない等の欠点もある。
(参考:吉田、日本リモートセンシング学会誌、39、1、22-28、2019)
・フルフィジクス法:
フルフィジクス(Full physics)法は雲・エアロソルの特徴を記述するパラメータを用いて光路長変動の影響をフォワードモデルで直接取り扱い、気体のカラム平均濃度を推定する手法。フルフィジクス法では導出対象気体に制約がつかないものの,雲・エアロソルに起因する光路長変動の影響を受けやすく,処理対象事例の選別や導出結果に対する品質管理等の対策が必要である。
(参考:吉田、日本リモートセンシング学会誌、39、1、22-28、2019)
・カラム量:
気体の総量を単位面積当たりの地上から大気上端までの柱(カラム)の中にある気体分子の数で表した数値
・カラム平均濃度:乾燥空気のカラム量に含まれる温室効果ガスのカラム量の割合
(参考:https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/69/column2.html
・フォワードモデル:
本報道発表におけるフォワードモデルとは、大気中の気体濃度、雲、エアロソルの分布や地表面反射率等を仮定した上で、衛星で観測される大気上端における上向き放射輝度スペクトル(地表面で反射された太陽光を含む)を計算するためのモデルである。
・光路長:
本報道発表における光路長とは、太陽光が地球大気中を伝搬し衛星に到達するまでの平均的な距離に、空気の屈折率を乗じたもの。太陽光は気体分子・雲・エアロソルによる散乱、地表面における反射を受けながら様々な経路をたどって衛星に到達する。どのような経路をたどるかは、雲・エアロソルの量や分布、地表面反射率の大きさなどによって変化し、これに伴い光路長の値も変動する。
・ppm(ピーピーエム):気体の濃度を表す単位の1種。1 ppmは100万分の1を表す。
・ppb(ピーピービー) :気体の濃度を表す単位の1種。1 ppbは10億分の1を表す。

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