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2018年12月27日

変化する環境のもとでの自然共生

特集 自然共生社会の実現をめざして いま私たちが取り組んでいること

山野 博哉

 今年の夏は、島嶼社会の持続性の研究のため、南太平洋のクック諸島にあるプカプカ環礁の島で3週間を過ごしました。日本からプカプカ環礁にたどりつくには、羽田からニュージーランドのオークランドまで飛行機で9時間、そこから飛行機を乗り換えてクック諸島の首都のラロトンガまで4時間、さらにそこからチャーター機で5時間かかります。移動やラロトンガでの準備を含めると、1ヶ月の長期出張となりました。我々はチャーター機で行ったのでラロトンガから5時間で着きましたが、住民の方々は数ヶ月に1度不定期にやってくる船で移動しています。船は途中でいろいろな島に寄りますので、ラロトンガから1週間以上かけてようやくプカプカ環礁に到着します。私がこれまで訪れた中でも圧倒的に「遠い」ところです。

 この遠さのためか、プカプカ環礁には、他に無い資源管理と共有の社会システムが長年維持されています。環礁にはいくつか島がありますが、人々はそのうちの1つの島に集まって住み、そこを3つの村に分け、それぞれの村に共有の土地や島があります。これらの共有地は厳格に管理され、年に数週間共有地を開放し、そこで育てているタロイモやそこに営巣している海鳥を採って村人が平等に分けます。我々が訪れた時期はまさに共有地を開放している期間にあたり、タロイモや海鳥を分配している光景を目にしました。まさに、生物多様性の保全、自然共生から持続可能な社会を実現している島と言えるかもしれません。

 このように書くと、伝統文化の島を想像されるかもしれません。私も実はそのようなイメージを持っていましたが、事実は大きく異なりました。大規模な太陽光パネルの発電所があり、電気は24時間制限無く使えます。速度は遅いですが、インターネットも通じるのです。人々の暮らしぶりも隔絶された島とは全く思えないものでした。太陽光発電所とインターネットが導入されたのはともに2000年代になってからです。急激なグローバル化と情報化がプカプカ環礁に起こりつつあるのではないかと思わせられました。

 プカプカ環礁の島は州島と呼ばれるサンゴ礁の砂や礫からなる標高の低い島で、気候変動による海面上昇や巨大化するサイクロンの影響が懸念されています。2005年にはサイクロンがプカプカ環礁を襲って甚大な被害をもたらしました。こうした時には、グローバル化の利点が現れます。情報がすぐに伝達し、赤十字をはじめ海外のプカプカ環礁出身者などによるさまざまな支援活動が行われました。プカプカ環礁は気候変動のもと、グローバル化による社会ネットワークの中で新たな持続性を達成しつつあるのかもしれません。

 このような、共同体での資源の共有とその後のグローバル化、そして持続性を課題とする社会の歩みは、日本にもあてはまるところがあるのではないかと思い当たりました。かつては日本は鎖国をしていましたし、里山のような共有地も存在していました。現在は貿易大国となった一方で共有地のシステムは消滅しており、気候変動や経済活動のグローバル化といった大きなスケールの変化のもとで自然と人間の関係を構築し、持続可能な社会を築いて行くことが課題となっています。

 今回の特集では、こうした視点で行われている自然共生研究プログラムの研究を紹介します。「研究プログラムの紹介」では気候変動のマングローブへの影響に関して、そして影響評価研究を支える実験的研究を行う大型施設バイオトロンに関して「研究施設・業務紹介」で紹介します。自然と人間との共存を目指す取り組みの一端については、「研究ノート」で野生生物の保全と利用について紹介し、気候変動の影響に対しての適応策については「環境問題基礎知識」で解説します。そして、経済活動のグローバル化による外来種の侵入に関しては「調査研究日誌」で大きな話題となっているヒアリ対策を紹介します。我々の研究が、変化する環境のもとで、生物多様性の保全から自然共生社会の構築を通じて、持続可能な社会の構築に貢献できればと考えています。

(やまの ひろや、生物・生態系環境研究センター センター長)

執筆者プロフィール

筆者の山野博哉の顔写真

これまで様々な離島を訪れましたが、訪れるたびにグローバル化と情報化が進んでいるのを目の当たりにします。出張先でメールが読めないから何もできなくてすみません、という言い訳ができなくなってきました。

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