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2022年4月28日

第7回NIES国際フォーラム開催報告
「持続可能なアジアと地球社会に向けて」

【行事報告】

企画部国際室

 国立環境研究所(NIES)では、アジア地域の研究機関との連携強化と持続可能な未来に関する議論を促進することを目的に2015年度から継続的にNIES国際フォーラムを開催しています。昨年同様コロナ禍の影響を受けながらも、2022年1月20日~21日に「第7回NIES国際フォーラム/7th International Forum on Sustainable Future in Asia」をオンライン開催し、木本理事長にも開会のご挨拶をいただきました。今回はFuture Earthの後援のもと-Research for Societal Transformation with Future Earth-というテーマを冠し、Future Earth国際本部日本ハブ事務局長を務めるNIESの春日文子特任フェローが本フォーラムのモデレータ、また同事務局の一人でもあるGiles Sioen連携推進部特別研究員が総合司会を務め、2日間にわたって講演と議論を行いました。また連携機関として、第1回フォーラムからの共催機関である東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)、アジア工科大学院アジア太平洋地域資源センター(AIT RRC.AP)に加えて、国内外でFuture Earthの活動を支援し、NIESとはプラネタリーヘルスの分野で協力を推進している長崎大学と総合地球環境学研究所(RIHN)を特別共催機関として迎えました。

春日特任フェローとIlan Chabay教授(IASS)の写真
図1 春日特任フェロー(左)とIlan Chabay教授(IASS)(右)

 フォーラム1日目は特に長崎大学に多大なご支援をいただきオープンシンポジウムを開催し、基調講演、朝山慎一郎主任研究員を含むアジア各国の若手研究者らによるフラッシュトークとパネルディスカッションといった多彩なプログラムが組まれました。基調講演では、長崎大学、国際応用システム分析研究所(IIASA)、サスティナビリティ高等研究所(IASS)から著名な研究者を招き、環境問題としての核兵器、環境の価値評価、システミックリスクについて問題提起いただきました。パネルディスカッションでは江守正多副領域長がファシリテーターを務め、基調講演者に加えて亀山康子領域長や住明正東京大学 IFI 特任教授(NIES元理事長)、そしてアジア工科大学からもパネリストが参加し、「科学と社会」という観点でボーダーレスなディスカッションが行われました。

パネルディスカッションの様子の写真
図2 パネルディスカッションの様子
(上段:左から江守副領域長、西田充長崎大教授、Leena Srivastava博士(IIASA)、
下段:左から住IFI特任教授、Shobhakar Dhakal AIT副学長、亀山領域長)

 専門家セッションでは、Future Earthが支援する活動のうちの3つのトピック、環境価値評価、脱炭素、システミックリスクに焦点を当て、長崎大学、NIES、RIHNがそれぞれ座長をつとめて議論を行いました。そのうちNIESが担当し、Sioen特別研究員と谷本浩志室長がオーガナイザーを務めたセッション2(脱炭素)では、Net Zero GHG emissions by 2050 in a complex world with stakeholdersというテーマで亀山康子領域長が座長となり、花岡達也室長、白井知子室長ら、さらにNIESが進めるAIMの関係者として、中国からJian Kejun博士、インドネシアからRizaldi Boer教授も加わって講演と議論を行いました。セッションを通して、インドネシア、中国、日本、アジア、そして世界における温室効果ガスのネットゼロを目指す各国政府の野心的な試みについて議論され、世界全体で必要な削減量はアジアの全排出量と同程度であり、国別貢献量にはまだ排出量のギャップがあることが明らかになりました。また、技術進歩によるエネルギー効率の改善(産業、家電、輸送など)、土地利用や林業の効率化(再生、保全、行動変化など)の役割について紹介されました。例えば輸送部門の電化は地域の排出量を削減しますが、アジアの電力生産の多くが石炭である限り地域の有害排出量の増加につながる可能性があるため十分な注意が必要であるとの指摘がありました。さらに漸進的な変化だけでは十分ではなく、多様なステークホルダーに対する継続的なモニタリングと情報共有が必要であること、データ(Global Carbon Projectや統合評価モデル)に基づき、コベネフィットやトレードオフを考慮した変革的な意思決定は社会やビジネスセクターなどの主要なステークホルダーとともに行うことで、より成功に近づくことができるという意見も出されました。多くの国で変革のための能力にまだギャップがあるため、継続的な取り組みが必要であるという点で参加者らの考えが一致しました。

 フォーラムの最後には今回のフォーラムを共同で企画した特別共催機関2機関とNIESから成るJoint Planning Committeeメンバーを代表して渡辺知保長崎大学学長特別補佐(NIES前理事長)から2日間の総括をいただき、閉会挨拶として森口理事から本フォーラム関係者及び参加者への謝辞とコロナ状況下での継続的な国際連携の推進への希望を述べて、2日間の日程が締めくくられました。

セッション2の様子の写真
図3 セッション2の様子
(上段:左から亀山領域長、Jian Kejun博士、花岡室長、下段:左から白井室長、Rizaldi Boer教授)

 今回は全世界的な取り組みであるFuture Earthをテーマにしたことで、これまでの国際フォーラムに主にご参加いただいていた東南アジア地域に加え、アジア全体、さらには欧州やアメリカまで裾野を広げて幅広い世界各地の研究者とともに議論を交わすことが出来ました。本フォーラムにご参加いただいた皆様に心より御礼申し上げます。依然として国境を越えることが難しい世の中ではありますが、オンライン会議のメリットを活かして、これからも国際的な協力を推し進めていきます。

 なお、本記事では十分紹介することができなかった1日目オープンシンポジウムでの議論の内容や、2日目の環境価値評価、システミックリスクについての専門家セッションを含めた本フォーラム全体のレポートをフォーラム公式 HP(https://www.nies.go.jp/i-forum/)に公開しております。またオープンシンポジウムのアーカイブ動画は NIES 公式 YouTube チャンネル(https://www.youtube.com/user/nieschannel)にてご視聴いただけます。是非ご覧ください。

※講演者の肩書は当時のものです。

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