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1998年3月30日

環境負荷の構造変化から見た都市の大気と水質問題の把握とその対応策に関する研究
平成5〜8年度

国立環境研究所特別研究報告 SR-26-'98

はじめに

表紙
SR-26-'98 [3.9MB]

 都市構造の変化や生活様式の変化は都市の大気と水質の環境負荷の構造を大きく変えている。例えば都市域のスプロール化は通勤距離を増大させ、このことにより自動車交通量の増加や交通渋滞が発生している。また都市に向けての物流の増加は自動車の車種変化をもたらし、大型ディーゼル貨物車の混入率の増加とこれによる窒素酸化物汚染、粒子状物質汚染が大きな社会問題となっている。このように大気汚染、騒音の問題はさらに深刻になっている。また生活スタイルの多様化によるエネルギー多消費型のライフスタイルは環境負荷の構造、すなわち排水や廃棄物の質や量を大きく変化させており、特に都市周辺地域における小規模未規制排水による表流水系の汚染が大きな問題となりつつある。それ故、環境負荷の構造変化に伴う地域の環境要因の悪化を早急に食い止め、改善に向かわせることが急務である。

 本研究は関東や関西を中心としたわが国の大都市地域の環境問題の中でも特に大きな問題となっている大気汚染と水汚染を環境負荷の構造変化との関連で捉え、その実態把握と改善対策に関する検討を行うことを目的として実施された。

研究の概要

 研究をすすめるにあたっては大気分野、水質分野それぞれについて以下の手法が用いられている。大気に関しては沿道大気汚染から広域大気汚染を相互に関連する現象として統一的に把握・評価する手法を検討した。研究手段としてモニタリングデータ解析、大気拡散風洞実験、フィールド観測、都市大気汚染モデルを用いた。水質に関しては、生活様式の変化や多様化による排水や廃棄物の質や量の変化が水圏生態系の水質汚濁、富栄養化に及ぼす影響評価と効果的対策手法を検討した。研究手段として水質問題の実態解明、水質問題の将来予測、水環境負荷削減技術、水環境改善対策導入の効果の評価解析を用いた。

 本研究で得られた成果を大気関係と水質関係に分けて要約すると以下の通りである。

 大気関係については大都市地域においては都市域の拡大と自動車の増加による発生源の拡大により大気汚染が広域化していること、これに伴って光化学大気汚染などの二次生成大気汚染の高濃度発生地域が都心から郊外に移動してきていることが明らかとなった。

 水質関係については環境負荷の構造変化等により水域の窒素、リンの濃度およびその比率の増加により有毒アオコが増大する傾向にあること、このため生活排水対策として小規模をはじめ高度処理施設の導入が必要であること、また、その場合省エネ、省コスト、水環境再利用を目ざした更なる研究が重要なことが明らかとなった。

Ⅰ.大気関係の研究内容

 都市の大気汚染は沿道大気汚染から広域大気汚染まで広い範囲に及んでおり、それぞれのスケールの現象が相互に関連しているため統一的な把握が必要である。このため沿道大気汚染に関する風洞実験並びに広域交通環境シミュレーションシステムの構築並びに広域大気汚染と局地大気汚染の関連性解析に関する体系的な研究を行った。具体的なフィールドとして関西地域における春季広域大気汚染のモデル評価、関東地域における夏季の広域光化学大気汚染の解析に関する総合的な研究を実施した。

(1)沿道大気汚染と関西地域における春季高濃度大気汚染に関する研究:都市内において二酸化窒素の濃度が最も高くなるのは沿道周辺地域である。市街地の道路は建物に取り囲まれている事が多いため、複雑な気流が形成される。このストリートキャニオン内での大気環境の評価にあたっては、沿道をとりまくより広い地域の大気環境の状況を知る必要がある。フィールド観測により大気の安定度によって濃度のレベルが大きく異なっている事がわかったが、様々な大気安定度によるストリートキャニオン内での濃度分布をフィールド観測により調査する事は極めて困難であるため風洞実験を行った。風洞による実験においても安定度を変化させた時の流れと濃度の観測は、実験技術上の困難さから、これまでほとんどんど成功していなかったが、レーザー流速計を用いた実験技術を確立した事により最新の実験結果を得ることが出来た。安定度が変化する事によりストリートキャニオン内での流れ場が大きく変化し、これに伴ってよどみ域内での濃度分布や上層からの空気の取り込みの様子が著しく異なる事、またこの時の沿道上層でのオゾンの濃度によりストリートキャニオン内でのNO2の濃度は大きく変化する事が分かった。

関西地域においては4月にNO2の濃度が高くなる傾向がある。この事を解明するために航空機を用いたフィールド観測とモデルによる評価を行った。観測時には地上でNO2の濃度が上昇したが、この時上空で80ppb以上のO3が出現していた。一方、3000m以上の上空においても60ppb程度のO3が認められており、成層圏から対流圏へのO3の沈降が観測された。また観測期間中の気象条件は、移動性高気圧の影響による沈降性の逆転が認められ、晴天で最高気温が25℃以上となり光化学反応が起こり易い条件となっていた。このようなバックグラウンドオゾンと光化学オゾンの寄与を知るためにモデルを用いた解析を行った。その結果関西地域での春季のNO2高濃度には光化学オゾンと成層圏オゾンがほぼ同等に寄与している事が明らかとなった。またNO2の生成要因別寄与に関しては、大阪地域内において発生したNOがNO2に酸化されることによる寄与が最も大きいことがわかった。

(2)関東地域における夏季大気汚染に関する研究:関東地域における夏季大気汚染の動態解明はこれ迄にも多数行われており局地風循環と光化学オゾンやエアロゾルの分布の間には密接な関係がある事が知られている。しかし山岳地域や海上での挙動に関しては十分な知見が得られていなかった。特に山梨県や、静岡県などの西部山岳地域、並びに太平洋上での動態解明が大きな課題となっていた。そこで東京都大島空港を基地として航空機観測を実施した。観測の結果、これ迄に知られていなかった広域大気汚染機構を見い出した。洋上の極めて広い範囲にわたり100〜280ppbの高濃度のO3が観測されたが、大島の気象台での観測では前日から南風が継続していた。メソ気象モデルを用いて解析した結果によれば、南系の風は海上の200〜300m程度の層に限定されておりこれより上層では北〜西系の風が吹いており、この事から日中に南風の海風により内陸に輸送された汚染空気が内陸の山岳付近で上層に取り込まれ北系の上層風で太平洋上まで輸送されたものである事が分かった。この様な広域な汚染空気の循環現象は今回初めて明らかにされたものである。

(3)光化学大気汚染のトレンドと大気環境負荷に関する研究:光化学大気汚染経年変化を明らかにするためにその原因物質であるNOxとNMHC(非メタン炭化水素)濃度の経年変化を解析した。大気汚染測定局のデータによれば1978年から1994年にかけてNMHCはてい減、NOxは1985年頃から増加となっていた。環境大気中におけるNOxとNMHC濃度の経年変化に関しては関西地域においても同様な傾向が認められた。環境での測定値の変化が発生源の変化を反映していると考え、モデルによりO3の出現動態の解析を行った。解析の結果では、NMHCの発生源が減少しNOxが増加すると、O3の最高値は少し増大するが、その増加量はそれ程大きな変化はないが最高O3濃度が出現する時刻は大きくずれて遅い時刻にシフトすることがわかった。夏季においては海風が侵入するため都心地域で発生した大気汚染物質は時刻とともに内陸地域へと運ばれる。このため最高O3濃度の出現時刻が遅くなる事は、最高O3濃度の出現地域が内陸部に移ることに対応する。データ解析の結果によれば日々のオキシダント最高値の出現率が、北関東地域、及び京都・奈良地域で増加している事がわかった。この傾向は前述のモデルシミュレーションの結果と整合していた。

Ⅱ.水質関係の研究内容

 本研究では主に富栄養化湖沼等における水質問題の実態解明、生活排水等に起因する水質問題の将来予測、水環境負荷削減技術開発および水環境改善対策の効果の評価、等について実験的検討を行い以下に示すような成果を得た。

(1)水質問題の実態解明として湖沼における有毒物質産生アオコの優占化に及ぼす環境因子を解析した結果、富栄養化した湖沼においてN/P比の増加に伴い藍藻類が優占化すること、
(2)Microcystis属の産生する有毒物質Microcystinの湖沼における消長を調査し、藻体内のMicrocystin濃度は増殖期に高い値を示し、消滅する過程で藻体外に排出され湖水中の濃度が高まること、
(3)藻類種の違いにより代謝、溶出される有機物量およびその構成成分が異なり、藍藻類より緑藻類の方がトリハロメタン生成能に強く影響を与えること、
(4)藍藻類の優占種の交代を支配する因子について実験的に検討し、Microcystis aeruginosaはN/P比が小さく水温が高い条件で、Phormidium tenueは逆の条件で優占化すること、
(5)水環境改善をはかる上で極めて重要な生活排水対策としての下水道、窒素・リン除去型合併処理浄化槽の普及に関して将来予測を行った結果、富栄養化を改善する上では未処理雑排水の規制とともに高度処理化が必須であること、
(6)水環境負荷削減技術開発および水環境改善対策の効果の評価として、変則合併処理浄化槽に嫌気好気循環を組み込んだプロセスを開発し、これにより有機物および窒素が高度に除去されること、
(7)嫌気好気生物膜法に循環を組み込み適正な運転を行うことにより、本来窒素除去の困難なBOD/T-N比1程度の排水でも、こうした循環を行わない場合の約2倍の除去率が得られること、また負荷変動に対しても安定化がはかられること、
(8)リン負荷削減技術としてアルミニウム電解法が有効であり、本手法を浄化槽に適用してケーススタディを行い、生活雑排水未処理人口の全てを合併処理浄化槽処理人口にするための費用にわずかに上乗せすることで、大きなリン除去負荷削減効果の得られる可能性があることなどが明らかとなった。

まとめと今後の検討課題

1.大気関係

 今回の研究においては沿道大気汚染から広域大気汚染にわたる様々なスケールの都市大気汚染現象を総合的・体系的に評価するための各種の手法を検討した。また日本の大都市地域における大気環境問題の現状をフィールド観測やモデルシミュレーションにより解析、評価した。研究の結果、東京や大阪などの大都市地域における大気汚染は依然として深刻である事がわかった。都市大気汚染の主要な発生源は自動車であるが、自動車単体の対策効果が、発生総量の増大により打ち消されており、このためNO2や光化学オキシダントの高濃度の出現地域は広域化の傾向にある。今回の観測では、春季、夏季ともに広域にわたる汚染物質の移流や循環が確認されており、都市スケールの大気環境を扱うにあたっても、より広いスケールの中での理解が必要である事が示された。今後の課題としては、市街地内部地域、複雑地形地域、山岳地域、並びに海上における大気汚染の挙動を正しく予測・評価出来るモデルの検討がフィールド観測とともに必要である。また長距離輸送や雲物理過程を取り扱えるモデルの確立が望まれる。大陸スケールの長距離輸送現象が都市の大気環境に及ぼす影響を明らかにするために、エアロゾルの生成プロセスの検討や、大規模気象と濃度分布との関連性に関する研究が必要である。現状では、大気汚染の動態把握に関しては発生源サイドの研究が大きく立ち後れている。特にVOCs(揮発性有機化合物)やエアロゾルの発生源の把握並びに大気環境への影響評価の研究が緊急の研究課題である。これに関しては平成10年度から3年間にわたり特別研究「都市域におけるVOCsの動態解明と大気環境質に及ぼす影響評価に関する研究」の実施を予定している。本研究の成果と課題は、この特別研究に引き継がれ継続的に研究が進められる予定である。

2.水質関係

 本プロジェクト研究で得られた合併処理浄化槽に関する技術開発の成果は、建築基準法に基づく窒素・リン除去型の浄化槽の構造基準に導入され、水改善効果に対する大きな期待がもたれている。都市の水環境の改善を図り、健全な水環境を創造していくためには、省エネルギー、処理施設のコンパクト化、省資源、経済性を達成する水環境修復技術開発がますます重要になると考えられ、さらに高度な水環境修復技術をベースとした地域環境、地域生態系に適合した水環境修復システムの確立が必要不可欠であることが本研究より明らかとなった。都市化の進んだ地域においては新たな水資源の確保が困難であることに加えて、水環境が本質的に備えている水質浄化機能や親水機能が多大な損傷を受けている。そのような傾向は我国のみならずアジア・太平洋地域における各国の都市においても深刻さを増しており、今後本研究成果等を基に、循環、共生を基調とした水環境の健全化をめざした都市システム創造のため各国の環境研究機関と有機的連携をとって研究開発を推進していくことが重要であると考えられる。

〔担当者連絡先〕

(大気関係)国立環境研究所
地域環境研究グループ
都市大気保全研究チーム
若松伸司
TEL 0298-50-2554
FAX 0298-50-2580
E-mail wakamatu@nies.go.jp

(水質関係)国立環境研究所
地域環境研究グループ
開発途上国環境改善(水質)研究チーム
稲森悠平
TEL 0298-50-2400
FAX 0298-50-2560
E-mail inamori@nies.go.jp

用語説明

  • 広域大気汚染
     光化学オゾンや浮遊粒子状、酸性降下物質などの二次生成大気汚染には気象と化学反応が同時に関与するため気象条件によっては100-1000キロメートルの範囲に影響を及ぼす。この様な大気汚染現象を広域大気汚染と言う。一般に一次生成大気汚染の場合には発生源の近傍で濃度が高くなるのに対し二次生成大気汚染の場合は必ずしも発生源の近くで高濃度になるとは限らない。広域大気汚染に関する研究は、これ迄にも多数行われて来たが、山岳地域や海上での挙動に関しては十分な知見が得られていない。
  • 大気拡散風洞
     地上1-2kmくらいの層を大気境界層といい、その中では風や気温が大きく変動する為、大気汚染の研究を行うに当たっては様々な気象条件下での大気拡散の様子を把握する事が必要である。大気拡散風洞は風速や大気の温度分布を変化させる事が出来る実験装置である。大気拡散風洞を用いる事により大気境界層 内における拡散の特徴やストリートキャニオンの中での風と大気汚染物質分布の関係を調べる事が出来る。大気拡散風洞とは、いわば風によって起こる現象を小さく縮小して、時間・空間的に現象をきれいに切り取って調べる実験装置である。
  • 二次生成大気汚染
     大気汚染発生源から直接的に排出される汚染物を一次汚染物質と言うのに対し、環境大気中において生成する大気汚染を二次生成大気汚染と言う。代表的のものが光化学オゾンである。浮遊粒子状物質の中にも二次的に生成するものが多く含まれる場合もある。
  • ストリートキャニオン
     道路周辺の建物による谷間をストリートキャニオンと言う。自動車の排ガスはストリートキャニオン内に出来る渦により風上側の道路隅に運ばれるが大気安定度が変化する事により流れ場が大きく変化し、これに伴ってよどみ域内での濃度分布や都市上空からの空気の取り込みの様子が大きく異る。沿道上層でのオゾンO3の濃度によりストリートキャニオン内での二酸化窒素NO2の濃度は大きく変化する。この為、ストリートキャニオン内での大気質評価にあたっては、沿道周辺の大気情況も知る必要がある。
  • VOCs
     メタン以外の炭化水素成分を非メタン炭化水素(NMHC)の言うが、これにアルデヒド類などの含酸素化合物等も含めた揮発性有機化合物の総称。光化学オゾンの生成に関わるとともに、ベンゼンや1-3-ブタジエンなどは有害化学物質である。都市地域における空気質の悪化は依然として深刻だが、特に発生源の動態が良く分かっていない揮発性有機化合物(VOCs)に関する研究が急がれている。
  • 富栄養化
     富栄養化とはリンや窒素等の栄養塩が増大し、水域での1次生産が増大する現象をいう。1次生産とはアオコ(Microcystis属、Phormidium属等の藻類)、赤潮を引き起こすおよび植物プランクトンの光合成による有機物の生産による水域のCOD等の増大することであるから富栄養化とは言い換えれば藻類が異常増殖する現象といえる。
  • 有毒物質産生アオコ
     富栄養化した湖沼では夏季を中心に藍藻類の異常増殖による溶存酸素の低下、魚類の大量へい死、悪臭、浄水過程でのろ過障害、トリハロメタン等の発ガン性物質の生成等の問題を誘発する。これらの藍藻類の中には有毒性の種が存在することが知られており、Microcystis属については7個のアミノ酸からなる環状ペプチド性有毒物質が数種単離精製されている。これらの有毒物質については基本構造の違いによりミクロキスチン RR、LR、YRなどが存在する。ミクロキスチンの毒性は青酸カリよりも強く世界保健機構(WHO)では規制基準を具体的に検討しており、我国においても水道水質基準への位置づけが急がれている。
  • トリハロメタン生成能
     上水源に藻類およびその代謝産物などの有機物が存在すると、水道用原水処理の塩素処理工程で塩素と反応してトリハロメタンが生成する。この有機物質をトリハロメタン前駆物質といい、その水中濃度等によってトリハロメタンを生成する能力(トリハロメタン生成能)が来まる。
  • 窒素・リン除去型合併処理浄化槽
     水処理システムとしての浄化槽は従来のBOD除去型では富栄養化対策には無力であり水環境を抜本的に修復するためには、BODのみならずし尿・生活雑排水中の窒素・リン除去に的を絞った高度処理プロセスの普及を念頭に置いた対策を図らなければならない。特に中小都市の水環境修復は、窒素・リン除去型小規模合併処理浄化槽の普及が中心になると考えられるが、小規模合併処理浄化槽は分散型処理システムとして、その位置づけは高く、富栄養化対策としての窒素・リン負荷量の削減に最も効果的であり、このようなシステムの普及を推進する必要があると考えられる。
  • BOD/T-N比
     生物学的脱窒反応において窒素が除去される過程では、脱窒細菌の働きが重要であるが、この菌は有機物としてのBODを栄養源とし、硝酸性窒素すなわち結合酸素を呼吸源とし生活していることから、呼吸の結果として窒素ガスが発生し、窒素が除去される。すなわちBODの消費と窒素ガス化は同時に起こり、BOD/T-N比が4ぐらいの条件が保持されている時に窒素除去が効果的に起こるというように、この比率は生物学的に窒素を除去する上で重要である。

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