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2015年4月30日

都市ヒートアイランドとエネルギー消費

特集 都市から進める環境イノベーション
【環境問題基礎知識】

平野 勇二郎

 都市のヒートアイランド現象という言葉はすでに広く一般に定着し、現在では行政や自治体、市民による様々なヒートアイランド対策が行われています。ヒートアイランドにより、例えば冷房用エネルギー消費や電力ピーク負荷の増大、街路空間の快適性の損失、熱中症の増加、都市型集中豪雨の発生などの様々な問題が生じていると言われています。とくにヒートアイランドによるエネルギー消費の増大は、エネルギー問題や地球温暖化問題といった地球規模の問題とも関係しているために重要な問題です。

 ヒートアイランドとエネルギー消費との関係を考えるためには、二つの側面を区別して考える必要があります。一つ目は、ヒートアイランドにより気温が上昇し、空調用のエネルギー消費に影響を及ぼしているという側面、二つ目は、エネルギーを消費することによって、人工排熱が生じてヒートアイランド現象が生じているという側面です。さらにフィードバック効果(ヒートアイランドによって冷房エネルギー消費が増えて、人工排熱が増えて、また気温が上昇するといった波及効果)があることも良く指摘されますが、その大きさは小さいため、ここでは無視することにします。

 これまでにヒートアイランド現象が夏季の冷房エネルギー消費量を増大させていることが問題視されてきました。しかし、実際には冬季にはヒートアイランド現象によりエネルギー消費量は減少しているはずなので、通年で考える必要があります。また、通年で考えた場合も、影響は気候条件によって異なるので、一概には言えません。例えば関東の気候条件で試算したところ、ヒートアイランド現象によって通年のエネルギー消費は業務部門では増大し、家庭部門では減少しているという結果になりました。

 なぜ業務部門と家庭部門とで影響の生じ方が違うかと言うと、一つの要因として、空調エネルギー消費の生じ方の違いが挙げられます。日本の平均的な気候条件では、オフィスや商業施設などの業務ビルでは暖房エネルギーよりも冷房エネルギーの方が多く、反対に住宅では冷房エネルギーよりも暖房エネルギーの方が多いのです。この理由はいくつかありますが、一つには、住宅の方が業務ビルよりも外気の影響を受けやすく、暖房エネルギーが多く必要になることが挙げられます。これは、日本の住宅では木造建築が多く、鉄筋コンクリート造のビルと比較して断熱気密性が良くないといった構造の違いや、小規模な建物ほど床面積に対して表面積が相対的に大きくなるといった規模の違いによるものです。そうすると、日本のほとんどの地域の気候条件では夏よりも冬の方が外気温と室温の温度差が大きいので、外気の影響を受けやすい住宅では暖房用エネルギーが多く必要になります。また、空調が必要になる時間帯は業務ビルは主に日中、住宅は朝方や夜間なので、一日の中での気温差も、業務ビルは冷房、住宅は暖房が相対的に多くなりやすい要因になります。さらに、業務ビルでは外気温だけでなく窓ガラスを透過した日射、室内における機器や人体からの発熱の影響が大きく、これは冷房が生じやすく、暖房が生じにくい要因になります。窓からの日射や室内の発熱はヒートアイランドと関係ないと思われるかもしれませんが、業務ビルでは冷房期間が長く、暖房期間が短くなるため、気温が上昇すれば通年のエネルギー消費量が増える要因になるのです。

 二つ目の要因として、家庭部門では風呂等で使う給湯用エネルギー消費量も非常に多く、これが気温の影響を受けます。給湯用エネルギー消費量は、年間を通じて気温が上昇すればエネルギー消費量が減る方向に変化します。もちろん風呂等による湯量や給湯温度は気温によって大きくは変わりませんが、水道の蛇口から出る水の温度が気温によって変動するため、給湯用エネルギー消費量が気温の影響を受けやすいのです。

 こうしたことから、ヒートアイランド現象により気温が上昇した場合、業務部門ではエネルギー消費の増大、家庭部門ではエネルギー消費の減少が生じることになります。したがって、商業・業務用地などの密集市街地ではヒートアイランド現象によりエネルギー消費が増大していると考えられるため、これまでも行政レベルで進められているような様々なヒートアイランド対策が有益です。しかし、住宅地にも展開する場合は、冬季に寒冷化するような対策ではかえってエネルギー消費が増えてしまう可能性が高いため、慎重な検討が必要です。

 そうすると、次の疑問は「冬は暖かくなるからヒートアイランドは良いことなのではないか」ということではないでしょうか。実際、ヒートアイランドという言葉が広く一般に浸透するにつれて、そうした趣旨の質問を受けることは多くなりました。そこで考えなければいけないのは、「どれだけエネルギーを無駄にしてヒートアイランドが生じているのか」ということです。もちろん、ヒートアイランドの要因は多々ありますが、冬季はもともと日射量や自然の蒸発散量が少ないので、夏季と比較し人工排熱の影響が大きいはずです。しかも、夏季と冬季とでは人工排熱の生じ方が違います。前述した通り冷房は外気の影響だけでなく窓からの日射や室内の発熱を除去する役割もあるので、夏季は室内環境を維持するために空調機器を通じて屋外に排熱することはある程度はやむを得ないという側面もあるかもしれません。しかし、冬季の人工排熱は空調機器が捨てた熱ではなく、建物から漏れてしまった熱なので、明らかにエネルギー資源の浪費です。そうだとしたら、冬季には断熱機密性の悪い木造住宅などで大量に暖房エネルギーが使われており、これがヒートアイランドの原因の一つになっているということです。このように考えれば、気温が上がってしまうほどにエネルギーを浪費することが良いことであるはずがありません。

 もちろん、住宅地において冬季も気温が下がるヒートアイランド対策を行うことは必ずしも得策ではありません。こうした地域では、例えば落葉樹を使って緑化したり、夏季日中に強く生じる海風や夏型の季節風を使って風の道を作るなど、夏季の暑熱環境を緩和し、冬季は寒冷化しない方策を選ぶ必要があります。

 ヒートアイランドは地域条件や季節、時間などによって、その要因や強度が異なります。また、都市のエネルギー消費も気候条件や建物構造、人間活動の在り方によって異なるため、ヒートアイランド対策を検討する際には両者を的確に把握し、適切な方策を選択することが重要です。

(ひらの ゆうじろう、社会環境システム研究センター 環境都市システム研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール

平野 勇二郎

独身の頃は省エネ主義でしたが、今は家に小さな子供がいるので、エアコンも車も手放せない生活になっています。ライフステージに合わせて柔軟な省エネ生活を考えることが大切であると身をもって実感しています。

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