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2013年4月19日

国立環境研究所研究プロジェクト報告の公表について(お知らせ)

(筑波研究学園都市記者会、 環境省記者クラブ同時発表)

平成25年4月19日(金)
独立行政法人国立環境研究所
企画部長  石飛 博之 029-850-2302
環境情報部長  岸部 和美 029-850-2340
【担当研究者】
地域環境研究センター  今井 章雄 029-850-2405
地球環境研究センター  花崎 直太 029-850-2929
環境計測研究センター  内田 昌男 029-850-2042
【担当】
環境情報部情報企画室  宮下 七重 029-850-2343


 国立環境研究所は、今般、研究プロジェクトの成果として3つの報告書を刊行しましたので お知らせします。

【SR-103-2012】
湖沼における有機物の循環と微生物生態系との相互作用に関する研究(特別研究)
:今井章雄
【SR-104-2012】
全球水資源モデルとの統合を目的とした水需要モデル及び貿易モデルの開発と長期シナリオ分析への適用(特別研究)
:花崎直太
【SR-105-2013】
日本における土壌炭素蓄積機構の定量的解明と温暖化影響の実験的評価(特別研究)
:内田昌男

1 報告書・研究成果の概要

【SR-103-2012】
湖沼における有機物の循環と微生物生態系との相互作用に関する研究(特別研究)

今井章雄>

 近年、多くの国内外の湖沼で、水に溶けている有機物、溶存有機物(DOM)の濃度上昇が報告されています。湖水DOM濃度の上昇は、湖沼生態系(種組成等)の変化、水道水源としての健康リスクや異臭味など、湖沼環境に大きな影響を及ぼします。本研究では、霞ヶ浦を対象として、新規性の高い分析・解析法と長期モニタリングを駆使して、湖水DOMが漸増するメカニズムを詳細に検討しました。

 その結果、湖水DOMの動態・特性・生産と微生物生態系(藻類やバクテリア等)が相互に強く関与していることが明らかになりました。D体-アミノ酸によるバクテリア起源DOM算定法から、湖水DOMの35~55%はバクテリア起源であることがわかりました。湖水DOM(ほとんどが難分解性)の主な起源はバクテリアと言えます。難分解性DOMの起源別の寄与をモデル解析したところ、降雨0.6%、河川67.5%、下水処理場放流水2.9%、底泥溶出12.0%、湖水柱生産17.6%でした。内部負荷(溶出+湖水柱生産)の寄与は全体の約30%を占め、アオコ発生(藻類種組成の劇的変化)に伴い増大しました。湖内部負荷の重要性が認識できます。

 本研究は、従来の知見と相当に異なる数多くの成果を生み出しました。その成果が湖沼環境研究の新しい方向への一歩になれば幸いです。

【SR-104-2012】
全球水資源モデルとの統合を目的とした水需要モデル及び貿易モデルの開発と長期シナリオ 分析への適用(特別研究)

花崎直太

 発展途上国での人口増加や経済成長にともなって、今後、水利用が世界的に増加していくことが予想されています。その一方で、地球温暖化によって水資源に悪影響が及ぶことも懸念されています。日本は水の豊かな国である一方で、生産時に多くの水を使う農畜産物を大量に輸入しており、海外の水事情とも無縁ではありません。このように、世界各地の水不足の問題は、私たちが取り組むべき重要な課題の一つになっています。

 国立環境研究所はこれまで東京大学などと全球水資源モデルH08を共同開発してきました。また、CO2排出などの環境負荷を考慮した経済モデルの開発や、計量経済学的手法を使った消費者行動についてのモデリングの分野で大きな成果を上げてきました。

 この研究では、これらを融合することで(1)社会や経済の要素から工業用水、生活用水を推定するモデルの開発、(2)世界の水資源の偏在の緩和に役立つ農作物貿易を推定するモデルの開発と分析、(3)より効率的な水利用を促進するための政策分析、(4)統合的な21世紀の世界の水資源評価に取り組みました。本研究報告書が、世界の水不足の問題を克服していくための新たな取り組みの一歩になれば幸いです。

【SR-105-2013】
日本における土壌炭素蓄積機構の定量的解明と温暖化影響の実験的評価(特別研究)

内田昌男

 陸域バイオマスの2~3倍の炭素を蓄積するといわれる土壌圏は、温暖化に伴う土壌有機物分解の促進により二酸化炭素の放出源となりうる一方で、土壌炭素蓄積量を増加させることが可能となれば大気中の二酸化炭素の吸収源になり、温暖化の緩和効果も期待されています。特に火山灰を母材とする日本の土壌炭素の分解・蓄積と関連した温暖化応答のメカニズムについての知見は限られており、温暖化に対する土壌炭素蓄積の将来予測は、大きな不確実性を伴っています。これは、分解特性の異なる様々な有機炭素が混在していることが主な原因の一つとなっています。

 そこで本研究では、土壌有機炭素の蓄積と分解に関わる土壌粒子と有機炭素の存在形態として、土壌の物理特性に着目しました。土壌を比重により分画し、異なる比重に区分された土壌有機炭素について、放射性炭素同位体(14C)を用いて分解速度を算出し、さらに土壌培養実験による温暖化影響評価を実施しました。その結果、日本に広く分布する火山灰母材の土壌の炭素蓄積・分解プロセスの解明に向けた基礎データを得ることができました。

 この結果、土壌を構成する様々な滞留時間をもつ有機炭素プールについて個別に分解速度を実測することにより土壌動態モデルにおける仮想的コンパートメントと対応付けが可能となることから、モデル計算結果における誤差要因(不確実性)の軽減が期待されます。

 本研究により得られた知見が、気候変動や土地利用変化に伴う炭素蓄積量の長期的な変動の予測で用いられる炭素動態シミュレーションモデルの高精度化に向けた新たな取り組みの一歩となることが期待されます。

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