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2013年12月16日

最近の直噴ガソリン乗用車からの微粒子排出状況

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時配付)

平成25年12月16日(月)
独立行政法人国立環境研究所
地域環境研究センター都市大気環境研究室
主任研究員: 近藤美則
環境計測研究センター有機計測研究室
主任研究員: 伏見暁洋
 

   国立環境研究所は、最近の直噴ガソリン自動車(注1)から比較的高濃度の微粒子が排出されることを確認しました。欧州メーカーと国内メーカーの直噴ガソリン乗用車各1台について調査した結果、粒子重量は少ないものの、粒子個数の排出量は従来のガソリン車(ポート噴射ガソリン車)(注2)の10倍以上でした。
   また、粒子の化学組成を調べたところ、重量の大半はスス(元素状炭素)(注3)であることが明らかになりました。
   直噴ガソリン車は燃費が良いため、ここ数年間で急速に普及しつつありますが、微粒子の排出状況についての情報が不足していました。今回明らかになったことをもとに、最近の直噴ガソリン車について詳細な排出実態調査や環境影響評価、追加的な排気対策の必要性など、環境影響の未然防止の観点から、様々な研究や対策が早急に求められます。
 

1.共同研究者

国立環境研究所 
地域環境研究センター広域大気環境研究室長  :高見昭憲
客員研究員:小林伸治
環境計測研究センター有機計測研究室長    :田邊 潔
客員研究員:齊藤勝美
環境リスク研究センター健康リスク研究室研究員:藤谷雄二

2.背景と目的

 乗用車の低燃費化は、地球温暖化対策として急務の課題であり、低燃費のハイブリッド車やディーゼル乗用車等がこれまで市場に投入されてきました。しかし、これらの車両は一般的なガソリン車に比べて車両価格が高く、大量に普及させることは難しい状況にありました。

 そのため、ガソリン車の低燃費化についても研究開発が進められ、ハイブリッド車と同等の燃費性能を示す筒内直接燃料噴射式のガソリン車(直噴ガソリン車)(注1)が、近年、欧州の市場に投入され始めました。直噴ガソリン車は、日本でも急速に普及しはじめ2012年には日本のメーカーから発売された主な新型エンジンの約4割に採用されています。

 直噴ガソリン車は、良好な燃費性能を示す一方、従来のガソリン車(ポート噴射ガソリン車)(注2)では問題視されなかった粒子状物質の排出が確認されることとなりました。日本では自動車から排出される粒子個数についての規制はありませんが(注4)、欧州では直噴ガソリン車に対する粒子個数の排出規制が2014年に開始される予定です。

 直噴ガソリン車からの粒子状物質の排出については、欧州での粒子規制に対応した研究は行われてきましたが、大気環境への影響や毒性を考えるうえで重要な化学組成に関する研究や、粒子の排出抑制策を検討する際に欠かせない粒子の起源に関する研究はあまり報告されていません。

 我々は、このような状況をふまえ、市場に投入され始めた最近の直噴ガソリン車を対象に、粒子状物質の排出量や粒径分布、化学組成等を明らかにすることを目的に研究を進めてきました。また、化学組成に基づき粒子の起源(ガソリン燃料、エンジンオイル、他)についても考察しました。

3.方法

 2011年式の直噴ガソリン乗用車2台(国内及び欧州メーカー製各1台)と、比較のため2007年式ポート噴射ガソリン車(国産直噴ガソリン車と同じ車種)の計3台を対象としました(参考表1)。排出ガス試験は、国立環境研究所低公害車実験施設を用いて、都市内の加減速走行を模擬した走行条件である公定法のJC08モードを中心に試験、解析を行いました。具体的には、(1)排出される微小粒子の個数と粒径分布の測定、(2)粒子重量の計測、(3)化学組成(炭素成分、元素、イオン、有機成分)の分析を行うとともに、(4)国産直噴ガソリン車については粒径別に捕集と組成分析を行い粒子の起源を考察しました。

4.結果と考察

 ガソリン乗用車3車種を対象とした粒子個数と粒径分布の測定、及び粒径2.5μm以下の微小粒子(PM2.5)試料の測定・分析の結果、以下のことがわかりました。

(1)国産直噴ガソリン車からの粒子個数の排出係数は、ポート噴射ガソリン車の10倍以上でした(図1)。欧州産直噴ガソリン車は、国産直噴ガソリン車の約5倍とさらに排出個数が多くなっていました。参考までに、粒子個数の排出係数を欧州の規制値と比較すると、直噴ガソリン車(国産及び欧州産)は、2017年実施予定の規制値を上回っており、欧州産直噴ガソリン車は2014年実施予定の規制値に近い値でした。なお、どの車両も、ディーゼル車の場合に問題視されていた粒径30nm付近の、いわゆる「ナノ粒子」の排出は少ないことが確認されました。

(2)粒子重量の排出係数についても、直噴ガソリン車(国産車、欧州産車)はポート噴射ガソリン車より多いが、希薄燃焼方式の直噴ガソリン乗用車に対する国内規制値(注4)よりは低い値でした(図2)。なお、排気後処理装置のないディーゼル乗用車は、粒子重量も個数も欧州規制値(ガソリン車、2014年~)を上回っていますが、微粒子捕集フィルター(DPF)付ディーゼル乗用車では粒子重量も個数も欧州規制値(ガソリン車、2017年~)を下回っています。

図1
図1.直噴ガソリン車とポート噴射ガソリン車の粒子個数の排出係数
a) 誌上発表(2)(3)のデータなどに基づき作図。規制値の詳細は参考表2を参照。
b) 本実験は、欧州規制の方法と走行条件や粒子個数の測定法が異なるので、欧州規制値との厳密な比較はできません(注5)
c) 本実験の値は日本の排出規制に準じて、JC08コールドスタート(注6)での測定値に0.25を乗じた値とJC08ホットスタート(注6)での測定値に0.75を乗じた値との和として算出。
図2
図2.直噴ガソリン車、ポート噴射ガソリン車、ディーゼル車からの粒子個数・粒子重量の排出係数
a) 誌上発表(2)(3)のデータなどに基づき作図。規制値の詳細は参考表2を参照。DPF付ディーゼル乗用車、ディーゼル乗用車の値は文献(2)からの引用。
b) 本実験は、欧州規制の方法と走行条件や粒子個数の測定法が異なるので、欧州規制値との厳密な比較はできません(注5)。また、日本の規制値との直接比較もできません(注4)
c) 本実験の値は日本の排出規制に準じて、JC08コールドスタート(注6)での測定値に0.25を乗じた値とJC08ホットスタート(注6)での測定値に0.75を乗じた値との和として算出。
d) DPF (Diesel particulate filter) とはディーゼルエンジンの排気ガス中の粒子状物質を低減させるフィルターのこと。

(3)粒子の主成分は元素状炭素(いわゆるスス)(注3)であり、国産ポート噴射ガソリン車では粒子重量の約7割、国産直噴ガソリン車では約8割、欧州産直噴ガソリン車では約9割以上を元素状炭素が占めていました(図3)。

図3
図3.直噴ガソリン車とボート噴射ガソリン車の(a)粒子質量の排出係数と(b)化学組成
a) 誌上発表(2)の図を改変。
b) JC08コールドスタートでの値。

(4)国産直噴ガソリン車からの排出粒子を粒径別に分析した結果、粒子中の有機炭素(炭化水素)(注7)や元素に対して、エンジンオイルの寄与は10~30%程度であり、大半はガソリン燃料(未燃または燃焼生成物・熱分解物)起源と推定されました。よって、粒子の主成分である元素状炭素に対してもガソリン燃料の寄与が大きいと推測されます。

5.今後の展望

 今回の実験から得られた排出係数に基づき、2020年にポート噴射ガソリン車が全て直噴ガソリン車に置き換わるという極端なケースを仮定して全国の自動車からの粒子排出量を見積もると、2010年にはディーゼル車が100%を占めていますが、ディーゼル車が年々排気のきれいな車両に置換されていくため、2020年には3割強を直噴ガソリン車が占めると推定されました(図4)。

図4
図4.全国の自動車からの粒子排出量に対するガソリン車とディーゼル車の寄与
a) 2010年の値は、ガソリン車からの排出係数をゼロとした推計値(文献(3))。
b) 2020年の値は、将来の車種別走行量(文献(3))を用い、ガソリン車が全て直噴ガソリン車になったと仮定し推計(排出係数には本研究の欧州直噴ガソリン車の値を使用)。

 また、我々の実験結果から、直噴ガソリン車から排出される粒子は元素状炭素が主体であることが明らかになり、その主な起源は燃料(ガソリン)と考えられます。よって、燃料起源の元素状炭素をいかに減らすかという視点で対策を講じることが排出粒子の削減に重要だと考えられます。

 我々は、環境影響を未然に防止する観点から、様々な車両や運転条件、環境条件、燃料での排出実態の把握、環境影響評価、健康影響評価、排出抑制対策等に関する研究や取り組みが重要だと考えています。

 さらに、ガソリン車やディーゼル車から大気中に直接粒子の状態で排出される物質だけでなく、ガスの状態で排出された後、化学反応によって粒子化する二次生成粒子についても、最新の知見に基づいた環境影響の評価、より精度の高い排出インベントリの作成に向けて研究を進めていく予定です。

 国立環境研究所は、一般社団法人日本自動車工業会と「自動車排出ガスが大気環境や健康に及ぼす影響に関する共同研究に係る覚書」を結んでいます。今後も適宜、データや情報の交換などを行いながら調査・研究を進めていきたいと考えています。

6.誌上発表

 本発表は,誌上発表(1)~(3)の内容をベースに加筆修正したものです。直噴ガソリン車の燃費についての研究成果は誌上発表(4)を参照して下さい。

(1)近藤美則、小林伸治、伏見暁洋、齊藤勝美、藤谷雄二、高見昭憲、田邊潔(2013)直噴ガソリン乗用車の粒子状物質排出特性-個数濃度と走行条件との関係-、自動車技術会2013年春季大会、前刷集85-13、 11-14、 433-20135505.
(2)伏見暁洋、齊藤勝美、小林伸治、近藤美則、藤谷雄二、高見昭憲、田邊潔(2013)直噴ガソリン乗用車の粒子状物質排出特性-粒径別化学組成と形態-、自動車技術会2013年春季大会、前刷集85-13、 15-18、 434-20135506.
(3)小林伸治、近藤美則、伏見暁洋、藤谷雄二、齊藤勝美、高見昭憲、田邊潔(2012)直噴ガソリン乗用車の粒子状物質排出特性、自動車技術会論文集、43、 5、 1009-1014、20124641.
(4)近藤美則、小林伸治(2012)最新直噴ガソリン車の燃費改善効果、自動車技術会2012年春季大会、前刷集50-12、 9-12、 243-20125227.

7.文献

(1)迫川茂博、志々目宏二、安田竜一、河口邦史、斉藤憲法(2013)年鑑12 ガソリンエンジン、自動車技術、67、8、93-101.
(2)Kirchner U., Vogt R., Maricq M. (2010) Investigation of EURO-5/6 Level Particle Number Emissions of European Diesel Light Duty Vehicles, SAE Technical Paper, 2010-01-0789.
(3)数理計画(2012)平成23 年度自動車排出ガス原単位及び総量算定検討調査報告書、環境省委託業務結果報告書.

8.注の説明

(注1)直噴ガソリン自動車とは、燃料(ガソリン)をエンジン(シリンダ)内に直接噴射するガソリン車のことです。直噴ガソリン車はその構造上、どうしても燃料の濃い領域がシリンダ内にできるため、スス粒子が生成しやすくなります。直噴ガソリン車は1950年代からある技術ですが、最近のものは第四世代と呼ばれ、様々な技術革新がなされています。なお、ディーゼル車も直噴式が主流です。

(注2)ポート噴射ガソリン車とは、燃料と空気の混合気をエンジン(シリンダ)内に噴射するガソリン車のことです。

(注3)スス(煤)とは、元素状炭素(EC)を主成分とする黒色で葡萄の房のような形状をした粒径100~300nm程度の粒子状物質のことで、自動車などの燃焼発生源から発生します。

(注4)日本では自動車からの粒子に関する排出規制は粒子重量に関してのみであり、個数についての規制はありません。ガソリン車からの粒子排出量は、吸蔵型NOx還元触媒を装着した希薄燃焼方式(リーンバーン)の直噴ガソリン乗用車のみ規制されており、本研究の対象車両など最近の直噴ガソリン乗用車は規制の対象とはなっていません。

(注5)粒子個数の測定は、本実験ではリアルタイム自動車排出微粒子解析装置(EEPS)を用い、粒径5.6~560nmの粒子を対象に行いました。一方、欧州規制(Euro5/6)では、粒径2.5μm以上の粒子を除去した後,加熱と希釈により不揮発性粒子のみとし、粒径23nmの粒子の計測効率が50%の凝縮粒子カウンター(CPC)で計測します。ただし、今回の実験値に関しては、粒径分布や組成分析の結果から、測定法の違いによる測定値の差は小さいと考えられます。

(注6)ホットスタートとは、試験前に予め一定時間運転(暖機運転)させ、エンジンや排気後処理装置等が暖まった状態にしてから運転することです。コールドスタートとは、暖機運転をせずに運転行う試験のことで、通常、粒子状物質もガス状物質も排出量が暖機状態に比べて多くなります。

(注7)有機炭素(OC)とは、二酸化炭素などの簡単な化合物を除く炭素化合物の総称で、本発表ではその総量を炭素量として表しています。ガソリンなど常温で液体や気体であるもののほか、不完全燃焼で生成する多環芳香族炭化水素(PAHs)などの粒子状物質など、様々な種類があります。

9.問い合わせ先

独立行政法人国立環境研究所 
地域環境研究センター
近藤美則 Tel: 029-850-2441、E-mail: kondos(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
環境計測研究センター
伏見暁洋 Tel: 029-850-2752、E-mail: fushimi.akihiro(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

10.参考

参考表1.対象車両の諸元
  国産ポート噴射
ガソリン車
国産直噴
ガソリン車
欧州産直噴
ガソリン車
燃料噴射方式 ポート噴射 直噴 直噴
吸気方式 自然吸気 自然吸気 過給
燃料 レギュラーガソリン レギュラーガソリン プレミアムガソリン
エンジンオイル 0W-20 0W-20 5W-30
排気量 (L) 1.348 1.298 1.197
試験時点の
総走行距離 (km)
106,000 8,000 (PM2.5 試料)
21,000 (粒径別試料)
11,000
年式 2007 2011 2011
排出ガス規制 平成17年規制(新長期規制)75%低減(四つ星)

参考表2.日本と欧州におけるガソリン乗用車に対する粒子の排出規制値
  名称 開始時期 粒子個数
(個/km)
粒子重量
(mg/km)
日本 ポスト新長期 *1 2009年10月 5 *2
欧州 *3 Euro5b 2011年9月 *4 4.5 *5
  Euro6b 2014年9月 *6 6.0×1012 *7 4.5 *5
  Euro6c 2017年9月 *8 6.0×1011 *7 4.5 *5
*1 平成21年規制(ポスト新長期規制)。
*2 吸蔵型NOx還元触媒を装着した希薄燃焼方式(リーンバーン)の直噴ガソリン乗用車に対してのみ適用。平均値であり、型式指定車に適用。JC08コールドスタートでの測定値に0.25を乗じた値とJC08ホットスタートでの測定値に0.75を乗じた値との和に対して適用。
*3 小型車両(基準質量2610kg以下)を対象。NEDCモード(コールドスタート1,ホットスタート4サイクル)。
*4 新型車を対象(In-Use Performance Ratio要件付)。全車両を対象とした規制は2013年1月~。
*5 ガソリン直噴車のみ適用。
*6 新型車を対象。全車両を対象とした規制は2015年9月~。
*7 粒径23 nm~2.5μmの固体粒子の粒子数を計測(注5)
*8 新型車を対象。全車両を対象とした規制は2018年9月~。

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