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2022年8月31日

人口減少と高齢化に伴う
使用済み紙おむつ排出量の推計

特集 地域と共に創る持続可能な社会
【研究ノート】

河井 紘輔

はじめに

 日本の人口は2008年に1億2,800万人に達した後、減少し始めました。年少(0〜14歳)人口と生産年齢(15〜64歳)人口は今後も減少するとみられる一方で、老年(65歳以上)人口は増加します。2015年の国勢調査によると、日本の高齢化率(総人口に占める老年人口の割合)は平均すると約27%ですが、地域によっては高齢化が急速に進んでおり、全国1,747自治体のうち221自治体で高齢化率が40%を超えています。

 人口減少と高齢化は、ごみ処理事業に様々な影響を与える可能性がありますが、想定される影響を以下の通り、いくつか挙げてみたいと思います。人口密度の低下により、ごみ収集が非効率になるかも知れません。自治体の税収が減少するため、ごみ処理コストを抑制する必要があります。多くの高齢者は、ごみ集積所までごみを持ち運ぶことが困難になる可能性があります。そして、高齢化に伴って介護が必要な人々が増え、大人用の使用済み紙おむつ排出量が増加し、ごみの収集や処理の方法を変更する必要があるかも知れません。持続可能な地域共創社会の実現に向けて、廃棄物を適正に処理することは重要な課題の1つで、使用済み紙おむつ排出量の増加は今後、深刻な問題となる可能性があります。そこで我々は、人口減少と高齢化に伴って使用済み紙おむつが将来的にどの程度、排出されるのかを推計しました。

紙おむつの使用実態

 まず、高齢者および乳幼児が排出する1人1日当たりの使用済み紙おむつ排出量を明らかにするため、紙おむつの使用実態に関するオンライン調査を実施しました。なお、大人用の紙おむつは65歳以上の要介護(要支援)認定者(以下、「要介護者」といいます。)が使用し、乳幼児用の紙おむつは0~4歳児(以下、「乳幼児」といいます。)が使用することとしました。

 大人用の紙おむつの使用実態調査では、全国の18歳~69歳のモニターを対象とし、モニターの家族に65歳以上の要介護者が1人いることをスクリーニング条件としました(ただし、モニター本人が要介護者の場合を除きました)。必要となる支援および介護の度合いを「要介護度」と言うのですが、要介護度は軽い順から要支援1、要支援2、要介護1、要介護2、要介護3、要介護4、要介護5の7区分あります。オンライン調査では要介護者を上記7区分に均等に割り付け、合計1,000モニターの回答を回収しました。

 乳幼児用の紙おむつの使用実態調査では、全国の20歳~49歳のモニターを対象とし、同居する家族に4歳以下の乳幼児が1人いることをスクリーニング条件としました。乳幼児を0歳児、1歳児、2歳児、3歳児、4歳児の5区分に均等に割り付け、合計1,000モニターの回答を回収しました。

 図1は、要介護度別のおむつの使用状況に関する調査結果を示しています。要介護度が高まるにつれ、おむつの使用割合も高まり、要介護度5に該当する要介護者の約94%がおむつを使用していることがわかりました。

要介護者のおむつの使用状況の図
図1 要介護者のおむつの使用状況(nは人数を表します)

 乳幼児は2歳まで完全におむつに依存し、3歳でおむつを「卒業」し始めます(図2)。乳幼児は、平均すると1人1日当たり5.6枚の紙おむつを使用していました。ただし、年齢別にみると0歳児は1人1日当たり7.3枚の紙おむつを使用していましたが、年齢が上がるにつれて、紙おむつの使用量は減少しました。4歳児は1人1日当たり1.4枚の紙おむつを使用していました。3歳児の約42%、4歳児の約89%が夜間のみ紙おむつを使用していることがわかりました。

乳幼児のおむつの使用状況の図
図2 乳幼児のおむつの使用状況(nは人数を表します)

 図3は、1人1日当たりの大人用の使用済み紙おむつ排出量を示しています。「紙おむつ本体」、「紙おむつを装着した状態での尿の排泄量」、「紙おむつを装着した状態での便の排泄量」を区別して計算しました。要介護3、要介護4、要介護5に該当する要介護者は、それぞれ1人1日当たり1,275g、1,386g、1,622gの使用済み紙おむつを排出していることがわかりました。大人用の使用済み紙おむつの50%以上は排泄物ですが、要介護度が高まるにつれて排泄物の割合が増加しているのがわかります。

 1人1日当たりの使用済み紙おむつ排出量は大人用よりも乳幼児用の方が少なかったのですが(図4)、排泄物の割合は乳幼児用の方が多く、すなわち乳幼児用の使用済み紙おむつは尿(水分)をより多く含んでいて、燃えにくい状態でした。

1人1日当たりの大人用の使用済み紙おむつ排出量の図
図3 1人1日当たりの大人用の使用済み紙おむつ排出量
1人1日当たりの乳幼児用の使用済み紙おむつ排出量の図
図4 1人1日当たりの乳幼児用の使用済み紙おむつ排出量

使用済み紙おむつ排出量の推計

 紙おむつの使用実態調査を踏まえて、2015年と2045年の使用済み紙おむつ排出量を、三重県をモデル地域として推計してみました。2015年の三重県の総人口は約182万人であり、2045年には約21%減の約143万人になると予測されています。2015年を基準として、2045年における三重県での使用済み紙おむつ排出量の変化を図5に示します。(a)は大人用の使用済み紙おむつ排出量の変化、(b)は乳幼児用の使用済み紙おむつ排出量の変化、(c)は大人用と乳幼児用の使用済み紙おむつ排出量合計の変化を表しています。県北部においては大人用の使用済み紙おむつ排出量は著しく増加しますが、県南部においては減少傾向にあります(図5 (a))。2045年までに三重県のすべての自治体で高齢化率が高まるのですが、65歳以上の人口は県北部で増加するとみられる一方で、県南部では減少します。県南部に位置する尾鷲市(C8)、熊野市(C11)、大紀町(T11)、紀北町(T13)における大人用の使用済み紙おむつ排出量は、2025年から2030年頃にピークに達し、その後は減少します。南伊勢町(T12)では、2020年に排出量がピークに達し、その後に減少し始めます。

 三重県で唯一、乳幼児の人口が増加するとみられる朝日町(T4)を除いて、すべての自治体で乳幼児用の使用済み紙おむつ排出量が減少します(図5 (b))。三重県全体で2045年における乳幼児用の使用済み紙おむつ排出量は2015年に比べて約32%減少し、県南部の10自治体では60%以上の減少が見込まれます。

 2015年に三重県で排出された使用済み紙おむつのうち、約62%は大人用、約38%は乳幼児用でした。それが2045年には、大人用の割合は約79%に増加します。高齢者も乳幼児も人口減少が見込まれる県南部では、使用済み紙おむつ排出量は減少します(図5 (c))。

 人口減少に伴って可燃ごみ(「燃やすごみ」や「燃えるごみ」と呼ばれている地域もあります)の排出量も減少します。使用済み紙おむつ以外の可燃ごみの1人当たりの排出量は将来も変わらないとして、2045年における可燃ごみ排出量を推計してみました。三重県で最も人口の多い四日市市(C2)では、2045年における可燃ごみ排出量は2015年に比べて約2%減少すると推計されました。県南部では人口が著しく減少しますが、特に南伊勢町(T12)では2045年における可燃ごみ排出量は2015年に比べて約67%も減少します。

2045年における三重県での使用済み紙おむつ排出量の変化(2015年比)の図
図5 2045年における三重県での使用済み紙おむつ排出量の変化(2015年比)

 現在、日本のほとんどの地域において、使用済み紙おむつは焼却処理されています。将来も使用済み紙おむつは焼却処理されるとして、2015年と2045年における可燃ごみに占める使用済み紙おむつの割合を推計してみました。介護施設や医療機関から排出された使用済み紙おむつの一部は産業廃棄物として処理されている事例もありますが、本研究では、使用済み紙おむつがすべて一般廃棄物として処理されると仮定しました。図6は三重県での可燃ごみ排出量に占める使用済み紙おむつ排出量の割合を示したもので、2015年と2045年の割合を比べてみました。2015年から2045年にかけて三重県のすべての自治体で可燃ごみに占める使用済み紙おむつの割合は増加すると推計され、2045年には県北部で約10%、県南部で15〜20%を占めることになります。

2015年および2045年における三重県での可燃ごみ排出量に占める使用済み紙おむつ排出量の割合図
図6 2015年および2045年における三重県での
可燃ごみ排出量に占める使用済み紙おむつ排出量の割合

おわりに

 本研究では、オンラインでの紙おむつの使用実態調査を実施し、大人用と乳幼児用の1人1日当たりの使用済み紙おむつ排出量を明らかにしました。そして、三重県をモデル地域として将来の使用済み紙おむつ排出量を推計しました。使用済み紙おむつ排出量が減少する地域においても、人口減少に伴って、可燃ごみ排出量に占める使用済み紙おむつ排出量の割合が高まることがわかり、今後、使用済み紙おむつはごみ処理にとって無視できないごみ組成となりそうです。

 衛生的な処理の観点から、使用済み紙おむつを焼却処理(高温で熱処理)すること自体は望ましいと考えられます。しかし、紙おむつを構成する素材のうち、半分はプラスチックで、使用済み紙おむつを焼却処理すると温室効果ガスが排出されます。使用済み紙おむつの焼却処理に起因する温室効果ガスの排出を抑制するためには、紙おむつ中のプラスチック素材をバイオマス化する必要があります。一方、使用済み紙おむつを焼却処理するのではなく、素材ごと(パルプ、プラスチック、吸水性ポリマー)にリサイクルする方法もありますが、使用済み紙おむつの分別収集、処理コスト、リサイクル製品の需要などの課題もあります。使用済み紙おむつを焼却処理するのか、あるいはリサイクルするのか、地域によってその判断は異なりますが、これからの時代は、行政、紙おむつ製造業者および小売業者、そして排出者が一丸となって使用済み紙おむつの処理という課題に立ち向かう必要があります。

(かわい こうすけ、資源循環領域 資源循環社会システム研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール:

筆者の河井 紘輔の写真

大阪府堺市出身。コロナ禍でひたすら自宅か研究所かに潜伏してデスクワークに没頭しておりましたが、ごみ処理の現場から2年以上も遠ざかってしまい、そろそろ感覚が鈍り始めました。ごみに触って匂ってなんぼ、というのが私の研究スタイルです。

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