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2016年6月30日

気候変動影響評価研究の動向

研究をめぐって

先進国から開発途上国まで、適応の重要性が広く認知されるようになりました。現在では、適応は、国家や自治体など様々なレベルで、気候変動への適応策の計画、法規制及び事業の構築などの実施段階へ移行しつつあります。

世界では

写真1
写真1:IPCC第5次評価報告書(AR5)第2作業部会の第1回執筆者会合(2011年1月:つくば国際会議場)
各章執筆者ら約300名が世界から集まり、AR5の構成や執筆分担について集中的に議論した。執筆者は、研究実績に加え、専門領域、地域、性別などのバランスを考慮して選出される。2013年~14年公表の第5次評価報告書には、国立環境研究所から計6名が執筆者あるいは査読編集者として報告書作成に参加した。

 長期の気候安定化目標の検討に関連した、科学的知見の総合化に関する取り組みが、長く続けられています。温暖化対策を加速化するためには、影響評価研究を実施するだけでなく、IPCC(コラム2)などの国際活動に参加して、最新の科学的知見を収集し、伝えることも重要です。特に、世界の影響評価研究では、緩和政策が失敗する可能性や、将来の気候変化が大きかった場合を想定して、大きな影響が生じた場合のリスク管理についての検討が始まっています。

 このような科学的知見の拡充・蓄積や、国際機関などによる科学報告書の取りまとめ、報道などが一体となった取り組みによって、先進国及び開発途上国において気候変動への適応の重要性について認知度が向上しました。現在、気候変動への適応は、国家から自治体まで様々なレベルにおいて、社会における認知と普及の段階から、計画、法規制及び事業の構築と実施段階へ移行しつつあります。

日本では

 平成27年11月に初めて国の適応計画が閣議決定されました。50名を超す専門家で構成された作業部会が設置され、作業部会では、日本における影響リスクに関する科学的知見の包括的評価を実施するとともに、各々の影響リスクに対応するための適応施策の選択肢を提示しました。適応計画では、その基本戦略として、科学的知見の充実とならんで、地域(地方自治体等)での適応の促進や、国際協力・貢献の推進などについても言及されています。

 自治体レベルでの影響評価・適応策の検討に関しては、平成27年12月より文部科学省「気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)」が開始されました。国立環境研究所も研究開発の中核機関の一つとして、影響評価技術の開発に取り組んでいます。国の適応計画は5年おきに見直しが行われることになっていますが、それに歩調を合わせ、自治体の適応計画策定や適応策の検討・推進も急速に進むものと期待されます(図6)。また、国際協力・貢献の推進に関しては、平成26年9月に国連気候サミットにおいて安倍総理が発表した「適応イニシアティブ」の一環として、途上国への適応支援事業が複数実施されており、国立環境研究所も基礎データや影響評価手法の提供などを通じて貢献を行っています。

図6
図6:日本の適応への取り組み例
日本の自治体においても、適応計画の策定が検討されつつあります。気候変動の影響は地域によって大きく異なるため、適応策の策定と実施においては地方自治体の役割が非常に重要です。
(出典:環境省(2015)STOP THE 温暖化 2015 第4章 二酸化炭素排出の現状とリスクへの適応)

 途上国への適応支援が適応計画において基本戦略の一つに位置づけられたことを受け、また国際的には平成27年12月のCOP21で採択されたパリ協定における適応の必要性の強調をふまえ、今後、日本による途上国への迅速な適応支援の仕組みづくりが求められています(写真2)。

写真2
写真2:途上国専門家との気候変動リスク把握ワークショップ
(スラバヤ・2016年2月)
政府の実施する途上国における影響評価・適応計画支援事業に参加し、現地の適応計画検討に資する影響評価に取り組んでいる。写真のワークショップ(東京大学IR3S他主催)では、現地専門家・役人らと協働し、懸念される気候変動影響の絞り込みを試みた。

国立環境研究所では

 複数分野の影響を包括的に評価するためには、空間スケールにかかわらず、単一研究機関での研究実施は 困難であり、複数専門機関・チームの連携する大型研究プロジェクトの形で推進されてきました。このよう な大型プロジェクトには異なる様々な専門分野の研究者が一つの目標に向かって協力していく必要があるた め、その調整・総括機能を担うチームが必要です。これまで、国立環境研究所はその役割を担ってきました。今期中長期研究計画(平成28年4月~33年3月)では、低炭素研究プログラムにおいて、全球規模の気候 予測モデル、影響評価モデル、対策評価モデルをより密接に結びつけた包括的なモデル研究体制を構築し、 自然システムと人間・社会システムの間の相互連関・整合性に留意した、対策の波及効果も含む気候変動リ スクの総合的なシナリオを創出する研究に取り組みます。また、所内各センターと連携し、気候変動問題と、資源循環、自然共生などの他の諸問題との相互関係をより良く理解し、同時解決への道筋を描くことを目的とした、環境社会統合研究プログラムを開始します。その析での利用を目的に開発を進めてきた社会・経済シナリオについて、他問題での応用が出来るように改良していくことが必要となります。

 さらに、気候変動戦略連携オフィスを設立し、国及び自治体の適応計画策定を支援するための科学的知見の集積や発信・配信を含めた気候変動適応情報プラットフォームの開発を予定しています。適応策を推進する自治体の政策担当者は、地域の脆弱性と潜在的な影響に関連する情報やデータへアクセスすることが容易ではないため、複雑な適応計画と実践に向けて何を準備してどのようにアプローチすれば効果的であるかを判断することが難しい状況にあります。

 このプラットフォームでは、科学的知見を一方向で提供するだけではなく、自治体の適応計画を支援すると共に、その知見や経験を集積し、政策面でのニーズと科学によるシーズの双方向のやりとりをサポートすることを目指します。

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