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2017年4月28日

統合研究プログラムがめざすもの
国立環境研究所でこれまでに取り組んできた持続可能性研究とこれから

特集 気候変動の緩和・適応から多様な環境問題の解決に向けて
【シリーズ研究プログラムの紹介:「統合研究プログラム」から】

増井 利彦

 国立環境研究所では、2016年度の中長期計画から、課題解決型研究プログラムの1つとして新たに統合研究プログラムが開始されています。「統合」という新しいキーワードが使われていますが、これまでにも環境問題を議論する上で使われてきた「持続可能性」を本文に示す5つの視点でとらえなおし、持続可能性に関連する様々な断面を「統合」しようとしています。

国立環境研究所でこれまでに行われてきた持続可能性を対象とした研究

 「統合プログラム」の説明の前に、これまでに国立環境研究所において行われてきた持続可能性に関する研究について振り返ってみます。

 2011年度から2015年度に行われた第3期中期計画では、次世代の環境問題に先導的に取り組む研究課題である先導研究プログラムの1つとして、「持続可能社会転換方策研究プログラム」を実施し、2050年における持続可能な日本の社会の姿を、定性的、定量的に示しました。このプログラムでは、環境問題よりも社会、経済といった点に注目し、持続可能社会の基盤となる社会像とはどのようなものかを検討し、「ゆたかな噴水型社会(日本のあらゆる資本を効率的に用いて、経済成長につなげていく社会)」と「虹色のシャワー型社会(高い経済成長ではなく、ソーシャルネットワークなど人々の相互支援で成長を補う社会)」という2つの異なる社会像を提示し、どちらの社会でも持続可能な社会を実現できることを示しました。詳しくは、国立環境研究所研究プロジェクト報告第120号をご覧下さい。また、2006年度から2008年度には、「中長期を対象とした持続可能な社会シナリオの構築に関する研究」を行い、環境省で行われた超長期ビジョン検討に対して様々な情報提供を行いました。その成果は、国立環境研究所特別研究報告第92号として報告しています。このほかにも、IR3S(サステイナビリティ学連携研究機構)にも協力機関として参画し、これらの研究を通じて、持続可能性を将来ビジョンやシナリオ、指標といった視点で検討し、どうすれば持続可能な社会を実現できるかということを分析してきました。さらに遡ると、国立環境研究所の前身の国立公害研究所においても、1980年代からどのような環境問題が社会の変化とともに将来重要になるかといったことが、所内の組織の枠を超えて議論されてきました。

世界を対象とした持続可能社会の見通し

 世界に目を向けると、2015年に国連で開催された「持続可能な開発サミット」において、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、その中には2030年を対象に、貧困や飢餓の撲滅や気候変動対策など17のゴールからなる持続可能な開発目標(SDGs)が含まれています。SDGsの前身は、2000年の国連ミレニアムサミットで示された、2015年を対象に8つのゴールからなるミレニアム開発目標(MDGs)です。MDGsでは途上国が対象でしたが、SDGsでは日本を含めた全ての国が対象となっています。

 こうした指標による取り組みとともに、将来の環境の見通しやシナリオも様々な機関で示されています。気候変動問題に関するものですが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2000年に報告した排出シナリオに関する特別報告書(SRES)では、2100年までの温室効果ガス排出シナリオが社会経済活動の状況とあわせて提示されました。国立環境研究所もその定量化には深く関わり、ここで示されたシナリオ群は、その後の環境を対象としたシナリオ研究の基礎となり、将来の生態系サービスを評価したミレニアム生態系評価(MA)などにも反映されています。また、SRESは、IPCCの第5,6次評価報告書に向けて、放射強制力と呼ばれる地球を暖める能力をある水準に安定化させるような温室効果ガス排出シナリオを定量化した代表的濃度経路(RCPs)や、将来の社会経済の状況を示した共通社会経済シナリオ(SSPs)へと発展しています。このほか、国連環境計画(UNEP)では世界環境見通し(GEO)を継続的に報告し、経済協力開発機構(OECD)でも環境見通しを公表してきましたが、国立環境研究所でもこうした活動に関わってきました。

統合研究プログラムが目指すところ

 統合研究プログラムは、前述のこれまで行ってきた持続可能な開発や将来シナリオといった研究を受けて行っているものです。社会環境システム研究センターがその中心ですが、低炭素、資源循環、自然共生、安全確保という他の課題解決型研究プログラムで分析される環境問題とともに、福島支部で行われる環境創生も研究対象として含めており、他のセンター、プログラムの研究者がメンバーとして広く参画しています。我々は、環境問題だけが改善し、社会や経済が抱える様々な問題が未解決の世界は、持続可能ではないと考えています。また、環境問題も、気候変動問題のように超長期、世界全体に関わる問題から、従来の公害問題のように対象となる空間、時間が限定される問題まで、取り扱う時間や空間のスケールが異なります。さらには、持続可能性の問題は、政府や研究者だけでなく、企業や個人などあらゆる主体に関わる問題で、わかりやすく説明することも必要となります。このようなことから、「統合」研究を実施するにあたって、図に示すような5つの視点を共有することにしました。

  • 1. 環境問題の統合:低炭素、資源循環、自然共生、安全確保、環境創生で対象となる様々な環境問題について、個別に解決するのではなく、同時に解決することをめざす。
  • 2. 環境・経済・社会の統合:様々な環境問題の解決とともに、経済発展、社会が抱える問題の解決もめざす。
  • 3. 都市、地域、国、アジア、世界の統合:上記の統合を、日本だけでなく、アジアや世界で実現できるように、また、日本でも地方や都市などより詳細な領域でも実現できるように、様々な空間スケールで生じる問題を統合的に解決することをめざす。
  • 4. 時間軸の統合:長期的な環境、経済、社会などの将来のビジョンの実現と、短期的に行っている様々な活動や取り組みが整合し、統合されることをめざす。
  • 5.分析手法の統合:定性的な叙述シナリオと統合モデルによる定量シナリオを統合し、わかりやすく具体的なロードマップの提示をめざす。

 以上の5つの統合の視点のもとで、以下の3つのプロジェクト(PJ)を構成し、持続可能な社会の実現に向けた研究に取り組んでいます。

  • PJ1:世界及びアジアを対象とした持続可能シナリオの開発に関する研究
  • PJ2:適応と緩和を中心とした地域環境社会統合的なロードマップ研究
  • PJ3:環境社会実現のための政策評価研究


 PJ1では、地球全体やアジアを対象とした持続可能性について研究を行います。また、アジアにおける取り組みとしては、経済発展と環境保全をどう両立させるかということを、アジアの研究者と一緒に検討していきます。筆者らが中心となって行っているアジア太平洋統合モデル(AIM)の開発に携わっているアジア主要国の研究者に対して、持続可能社会の構築に向けて、先に示したSDGsの17のゴールのうち、どのゴールの優先順位が高いかを聞いてみたところ、教育(ゴール4)や健康と福祉(ゴール3)を重要と考えている研究者が多い結果となりました。こうした結果は、持続可能な社会の実現に向けて、社会全体の底上げが重要であると認識されているといえます。アジア各国が抱える様々な課題に対して、日本の知見をどのように共有するかも重要な課題の1つと考え、モデルの共有や人材育成などを行いたいと考えています。

 PJ2では、日本を対象に、気候変動の緩和策、適応策の両方を踏まえた低炭素社会の実現を出発点に持続可能な社会の実現に向けて、国や都市などどのような方策を検討することが必要かについて取り組んでいます。ここでも、統合評価モデルというツールを用いて定量的な分析を行うとともに、研究成果の社会実装もめざした社会モニタリングも行い、統合的な施策評価と実施計画の立案検討の枠組み構築をめざします。

 PJ3では、空間的なスケールで区切られたPJ1とPJ2に対して横断的に取り組むプロジェクトで、持続可能な社会に向けた地域及び生活を対象とした計画策定手法の開発、及び国・地域を対象とした法制度の提示をめざしたプロジェクトとなっています。

 以上の3つのPJが、連携して持続可能な社会の実現に向けた取り組みについて、研究を進めています。2050年やさらにその先を見据えて、人々が暮らしてみたいと思えるような社会、環境、経済の姿とともに、そうした姿を示す評価手法について提示することを目指しています。また、実現性という観点から画に描いた餅で終わらせないように、常に社会実装を念頭に置いて研究に取り組むことをメンバー全員が心がけています。

図 総合研究プログラムで取り組む様々な断面での「統合」

(ますい としひこ、社会環境システム研究センター 統合環境経済研究室長)

執筆者プロフィール:

執筆者写真 増井利彦

今回の原稿執筆に当たって、古い資料を改めて読みました。問題設定などは陳腐化しておらず、諸先輩方の慧眼に脱帽する一方、問題を解決できていない状況にこの問題の難しさを痛感しました。一歩でも前進できるように頑張ります。

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