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2013年6月28日

低炭素社会の実現に向けた実践的な研究を目指して

【シリーズ重点研究プログラム:『地球温暖化研究プログラム』から】

増井 利彦

 2013年から京都議定書の第二約束期間が始まりました。日本は、第二約束期間への参加は見送ることになりましたが、地球温暖化対策が重要な課題であることに変わりはなく、低炭素社会の実現に向けて様々な取り組みが試みられています。地球温暖化研究プログラムPJ3「低炭素社会に向けたビジョン・シナリオ構築と対策評価に関する統合研究プロジェクト」は、2011年から開始した国立環境研究所第3期中期計画において、地球温暖化問題の緩和策(温室効果ガス排出量の削減策)を取り扱う研究プロジェクトです。PJ3を構成するメンバーは、2013年5月時点で20名で、低炭素社会の実現に向けて、日本・アジア・世界における中長期的なビジョン、シナリオを、必要となる政策オプションとともに提示することを目的として、3つのサブテーマに分かれて研究を行っています。

図
地球温暖化研究プログラムPJ3「低炭素社会に向けたビジョン・シナリオ構築と対策評価に関する統合研究プロジェクト」の全体像

 サブテーマ1「アジア低炭素社会シナリオ開発及び社会実装に関する研究」では、アジア地域の国・地域レベルにおいて、温室効果ガス排出量を大幅に削減した低炭素社会の実現に必要となる社会経済の動向や対策、政策、制度などの要素について、さまざまな手法を用いて定量的・定性的に検討しています。特に、バックキャスティングと呼ばれる将来の目標を明確に設定し、その目標に向けてどのような対策を講じればよいかを検討する手法を用いて、アジアにおける低炭素社会実現に向けた取り組みを検討しています。これまでに、環境省環境研究総合推進費を通じて、所内外の様々な研究機関とともに、2050年に世界全体の温室効果ガス排出量を1990年比半減させるために、アジア全域において必要となる施策とその道筋をとりまとめた「10の方策」という叙述シナリオを提示してきました。2013年度中には、叙述シナリオに対応する定量化を、サブテーマ2を中心に開発しているモデルを用いて完了させる予定です。また、アジア各国の研究者が中心となって行っている各国における低炭素社会シナリオ作りも支援しています。さらには、JST(独立行政法人科学技術振興機構)とJICA(独立行政法人国際協力機構)が共同で実施しているSATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力)の研究プログラムの1つとして、マレーシアの経済特区であるイスカンダル開発地域を対象とした低炭素社会実現に向けた分析を、マレーシア工科大学やイスカンダル開発庁など、現地の研究機関、行政機関などと共同で行っています。こうしたいわゆる従来型の「研究」にとどまらず、実際に低炭素社会の実現に向けて研究の成果を社会に適用すること(社会実装)が、このサブテーマの大きな特徴であるといえます。

 サブテーマ2「日本及び世界の気候変動緩和策の定量的評価」では、日本や世界を対象とした技術選択モデルや応用一般均衡モデルについて、部門や地域の詳細化、将来のエネルギーサービス需要量の推計や技術普及過程の検討などを行い、日本および世界各地域における温室効果ガスの削減ポテンシャルや対策に要する費用の推計を行っています。東日本大震災と福島第一原子力発電所事故以降、日本のエネルギー政策、温暖化政策は大きく変わりました。2013年4月時点で、その将来像はまだ明確ではありませんが、こうした将来像の構築を支援するためのモデル開発とその分析を、このサブテーマでは行っています。これまでに、環境省中央環境審議会地球環境部会「2013年以降の対策・施策に関する検討小委員会」や「エネルギー・環境会議」に対して、日本を対象としたモデル分析の試算結果(2020年や2030年までに、様々な前提のもとで、どれだけ温室効果ガス排出量を削減することが可能であるか、また、その費用はいくらになるか)を提供してきました。このほか、世界を対象としたモデルについては、EMF(エネルギーモデリングフォーラム)やAMPERE(気候変動緩和策の道筋と費用の評価)等、様々な国際比較プロジェクトに参画し、結果を提供してきました。アジア各国を対象としたモデルについては、サブテーマ1と共同で、アジア各国から若手研究者を招へいし、人材育成のためのトレーニングワークショップを実施しています。

 サブテーマ3「低炭素社会構築のための国際制度及び国際交渉過程に関する研究」では、気候変動枠組条約および京都議定書の下での国際交渉を調査・分析し、交渉を難航させる原因を指摘し、合意に至るための道筋を検討しています。これまでに、次期国際制度に関する国際交渉が難航する原因や、中長期的に目指すべき国際制度の構造を明らかにし、2011年にはその成果を「気候変動と国際協調—京都議定書と多国間協調の行方」(慈学社出版)として出版しました。気候変動枠組条約の下では、2011年のCOP17にてダーバン・プラットフォームの設置が合意され、すべての国が参加する国際枠組みを2015年までに採択し2020年までに発効することを目指して協議していくことが決まりました。気候変動問題に関する制度構築が近年ますます複雑化かつ多層化する中で、2015年に合意達成が目指されている国際制度に最低限盛り込まれていなくてはならない制度構成要素について、2012年度に、アンケート調査を含めて検討しました。今後、各国にとって受け入れられやすい国際合意の内容をさらに具体的に研究していくことで、国際交渉に対する日本政府の交渉戦略の策定への貢献や、国内の気候変動政策の定性的評価につなげていきます。

 低炭素社会の実現に向けた取り組みを支援し、さらに加速させるために、以上の3つのサブテーマが連携して取り組んでいます。このほか、地球温暖化研究プログラムPJ2「地球温暖化に関わる地球規模リスクに関する研究」とは温暖化影響や適応策を含めたモデル開発や分析を、持続可能社会転換方策研究プログラムとは低炭素社会を含めた持続可能な社会の実現に向けた取り組みの検討を、それぞれ連携して行っています。

(ますいとしひこ、社会環境システム研究センター統合評価モデリング研究室長)

執筆者プロフィール

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国環研に就職して15年が過ぎました。研究だけではダメと、家族を巻き込んで電力消費の見える化を開始し、省エネ生活を実践中。徹夜の仕事は省エネにもよくないことを改めて実感しました。成果は、夏の大公開で報告予定です。

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