ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2020年9月17日

共同発表機関のロゴマーク
温暖化による全球乾燥度の変化と人為起源の影響を分析
~世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えることで、乾燥化を大幅に抑制可能~

(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配布)

令和2年9月17日(木)

1.発表者

東京大学 生産技術研究所 特任准教授 金 炯俊(KIM Hyungjun)
東京大学 工学系研究科社会基盤学専攻 博士課程 竹島 滉
国立環境研究所 地球環境研究センター 室長 塩竈 秀夫

2.発表のポイント

◆この100年で深刻化してきた地球の乾燥化の主な原因は、人間の活動が引き起こした地球温暖化にあると考えられる。
◆地中海周辺や南米北部、南アフリカなどでは、地球の平均気温の上昇を2℃で抑えた場合に、1.5℃に抑えた場合に比べ、主に降雨量が大きく減ることにより乾燥化が急激に進むと予測される。
◆気温上昇を1.5℃に抑えることで、全球的な乾燥化を大幅に抑えうると考えられる。

3.発表概要

   東京大学 生産技術研究所の金 炯俊 特任准教授らの研究グループは、過去およそ100年間にわたって地球が乾燥化し続けてきた主な原因が、人間の活動が引き起こした地球温暖化にあることを示した。また、温暖化に伴う今後の乾燥度の変化を分析し、世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えた場合には、2℃に抑えた場合に比べて乾燥化を大幅に抑えうることを示した。
   まず、過去に起きた乾燥化の要因を分析した。観測値と新たな数値モデルを使い、自然変動のみを考慮した場合と、人間の活動の影響を考慮した場合それぞれについて、気候変動のシミュレーションを行った。産業化以前の気候と比較すると、人為的要因によって主に蒸発散量(注1)が増加し、利用可能な水資源(降水量-蒸発散量)が減少することで、ヨーロッパ、北西アメリカ、北アジア、南米南部、オーストラリア、東アフリカを含む、中高緯度地域を中心に、乾燥化が進んできたという結果が得られた(図1)。
   一方、将来予測では、年平均の正味放射量(注2)と年降水量の比で定義される気候学的乾燥度を指標として、温暖化に伴う乾燥度の変化を分析した。予測シミュレーションデータには、気候変動数値実験プロジェクト(HAPPIプロジェクト、注3)による大規模アンサンブル実験(注4)の結果を用いた。その結果、気温上昇度によらず、乾燥化する地域と湿潤化する地域の両方が生じることが予測された。ほとんどの地域で1.5℃上昇時と2℃上昇時とで同じ方向(乾燥化あるいは湿潤化)への変化を示したが、2℃上昇の場合に、1.5℃上昇に比べて大幅に乾燥化する地域(地中海周辺や南米北部、南アフリカなど)が広く見られた(図2)。この結果から、気温上昇を1.5℃に抑えることで、地球の乾燥化を大幅に抑えうると考えられる。
   過去に起きた乾燥化に関する研究成果は2020年6月29日(英国夏時間)に「Nature Geoscience」に、今後の温暖化に伴う乾燥化に関する研究成果は2020年9月15日(英国夏時間)に「Environmental Research Letter」に掲載された。

4.発表内容

研究背景

   地球温暖化に伴う気候システムの変化は、大雨や猛暑日などの極端現象の増加や降雨量の変化といった形で人間社会に影響を与える。その中でも乾燥度の変化は、生態系や農業に大きな影響を与えると考えられており、温暖化の影響評価において極めて重要である。
   2016年に発効したパリ協定において、産業革命以前を基準とした世界の平均気温上昇を2℃より低く抑え、さらに1.5℃以下に抑えるよう努めることが目標に掲げられた。温暖化に伴って起こると予測される気候変動およびそれらの人間社会への影響についてはこれまでさまざまな研究がなされてきたが、パリ協定で目標とされている1.5℃あるいは2℃上昇で平衡に達した場合の、気候学的な乾燥度の変化に関する包括的な研究は行われていなかった。

研究内容

1.過去の乾燥化は、主に人間の活動による温室効果ガス排出の影響により地表からの蒸発散量が増加して生じた。

   まず、過去およそ100年にわたる地球の乾燥化の要因を分析した。地表面モデル(注5)と気候モデルを用いて、自然変動のみを考慮した場合と人間の活動の影響を考慮した場合それぞれについて、1902年から2014年までの利用可能な水資源量(降水量-蒸発散量)をシミュレーションした。そしてそれらの結果を、産業化以前の気候と比較した。解析の結果、人間の活動の影響を考慮した場合には、20世紀前半と比較して、最近30年間の1年で最も乾燥した月の平均利用可能水資源量が各地で観測と同様の変化を示した。この変化のパターンは気候の自然変動のみを考慮した場合には予測されないため、人間活動による温室効果ガス排出の影響を受けている可能性が極めて高い。特に、ヨーロッパ、北西アメリカ、北アジア、南米南部、オーストラリア、東アフリカを含む、中高緯度地域で乾季の乾燥度が強化していることが示された。さらに、この現象は、降水量の減少ではなく、主に蒸発散量の増加の結果生じていることも特定された。
   予測シミュレーションには、結合モデル比較プロジェクト(CMIP5およびCMIP6、注6)の結果を用いた。CMIP6のLand, Snow, Soil-moisture Model Intercomparison Project(LS3MIP)実験は、金 特任准教授が共同議長を務める国際研究プロジェクトである。

2.世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えると、2℃に抑えた場合に比べて乾燥化を大きく抑えうる。

   次に、気候変動数値実験による大規模アンサンブル実験の結果を用い、地表面の正味放射量と降水量の比で定義される乾燥度(Budykoの乾燥度指数)を指標に、温暖化に伴う乾燥度の変化とその要因を分析した。ここで正味放射量と降水量は年平均値とし、乾燥度の変化は、短期的な干ばつなどの現象よりむしろ気候システムそのものの乾燥状態あるいは湿潤状態への遷移を意味する。
   気温上昇に伴い、正味放射量は陸域の多くの地域で有意な増加を示したのに対し、降雨量は増加する地域と減少する地域とに分かれ、結果、乾燥化する地域と湿潤化する地域とが生まれると予測された。乾燥度指数の変化は、ほとんどの場合1.5℃上昇時と2℃上昇時とでは同じ方向を示したが、上昇温度に必ずしも比例しておらず、いくつかの地域では1.5℃から2℃への上昇に伴い、乾燥化が急激に進行すると予測された。特に地中海周辺の降雨量は、1.5℃上昇では有意な変化を示さないが、2℃上昇では6%以上減少し、乾燥化をもたらすと予測された。また、1.5℃上昇で顕著な乾燥化が予測される南米北部や南アフリカでも、2℃上昇でさらに降雨量が減少し、乾燥化が進むと予測された。逆に、オーストラリアおよび東南アジア諸島など、1.5℃上昇では強い乾燥化が予測されたが、2℃上昇では降雨量の減少率が小さく、乾燥度の上昇率も有意に小さくなる地域も見られた(図2)。
   1.5℃上昇の場合に乾燥化が予測される地域では、ほとんどの場合、2℃上昇時にはさらに乾燥化が進むと予測された。一部地域では乾燥化の緩和も見られたが、乾燥化の進む地域の方が広範囲におよび、またいくつかの地域では急激に乾燥化が進行することが予測された。これらの結果から、気温上昇を1.5℃に抑えることで、2℃上昇時に比べて地球の乾燥化を大幅に抑えうると考えられる。

5.発表雑誌

雑誌名   :「Nature Geoscience」(オンライン版:英国夏時間6月29日掲載)
論文タイトル:Observed changes in dry-season water availability attributed to human-induced climate change
著者    :Ryan S. Padrón*, Lukas Gudmundsson, Bertrand Decharme, Agnès Ducharne, David M. Lawrence, Jiafu Mao, Daniele Peano, Gerhard Krinner, Hyungjun Kim and Sonia I. Seneviratne(*:責任著者)
DOI番号   :10.1038/s41561-020-0594-1

雑誌名   :「Environmental Research Letter」(オンライン版:英国夏時間9月15日掲載)
論文タイトル:Global aridity changes due to differences in surface energy and water balance between 1.5°C and 2°C warming
著者    :Akira Takeshima, Hyungjun Kim*, Hideo Shiogama, Ludwig Lierhammer, John F. Scinocca, Øyvind Seland and Dann Michell(*:責任著者)
DOI番号   :10.1088/1748-9326/ab9db3

6.問い合わせ先

東京大学 生産技術研究所
特任准教授 金 炯俊(きむ ひょんじゅん)

7.用語解説

注1)蒸発散量:
   地面からの蒸発量と植物からの蒸散量の和。
注2)正味放射量:
   地表が正味で受け取る放射エネルギー。
注3)気候変動数値実験プロジェクト(HAPPIプロジェクト):
   全球平均気温1.5℃上昇時と2.0℃上昇時の影響の差を評価するために行われた、複数の全球気候モデルによる気候変動シミュレーション実験。
注4)大規模アンサンブル実験:
   数値モデルを用いた予測シミュレーションの結果にはさまざまな要因による予測不確実性が含まれている。予測不確実性を統計的に考慮するためには、複数の実験が必要である。その実験数が膨大な規模であるものを大規模アンサンブル実験と呼ぶ。
注5)地表面モデル:
   地表面でのエネルギーと水のバランスを計算する数値モデル。本研究では地表面モデルによる計算結果は観測値として扱われた。
注6)結合モデル比較プロジェクト(CMIP):
   地球の大気・海洋・陸域状態をシミュレーションする様々な気候モデルの相互比較プロジェクト。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書の科学的根拠となる気候シミュレーションを提供している。

8.研究助成

   本研究は、日本学術振興会特別推進研究「グローバル水文学の新展開」(16H06291)、文部科学省「統合的気候モデル高度化研究プログラム」(JPMXD0717935457)および(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(ERTDF 2-1702)により実施しました。

9.添付資料

(上)地表面モデルの数値実験による1902年から2014年までの利用可能な水資源量の変化と(下)自然放射強制力のみ考慮した気候モデルによる変化の図
図1(上)地表面モデルの数値実験による1902年から2014年までの利用可能な水資源量の変化。赤くなるほど乾燥化が進んだことを示す。(下)自然放射強制力のみ考慮した気候モデルによる変化。上図と比べて顕著な乾燥度の変化が見られない。
乾燥度指数の相対差分((2℃上昇時-1.5℃上昇時)/1.5℃上昇時、%)の図
図2 乾燥度指数の相対差分((2℃上昇時-1.5℃上昇時)/1.5℃上昇時、%)。正の値は乾燥化、負の値は湿潤化を示す。氷床および砂漠は解析対象外(灰色部分)。点は4つのうち3つ以上のモデルが統計的に有意かつ同じ方向の変化を示した領域を示す。広い地域で強い乾燥化が見られ、特に南米北部・地中海沿岸域・南アフリカで顕著である。