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2019年12月3日

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生物多様性保全と温暖化対策は両立できる
-生物多様性の損失は気候安定化の努力で抑えられる-

(林政記者クラブ、農林記者会、農政クラブ、筑波研究学園都市記者会、京都大学記者クラブ、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

令和元年12月3日(火)

ポイント
・地球温暖化による気温上昇を2℃以内に抑えるには、新規植林やバイオ燃料用作物栽培など土地改変を伴う対策が必要です。
・しかし、温暖化対策による土地改変は、野生生物のすみかを奪い、多様性を低下させるかもしれないと心配されていました。
・本研究では、土地改変による影響を考慮しても、気温上昇を2℃以内に抑えることで、生物多様性の損失を抑えられることを予測できました。

概要
   国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所(以下、森林総研とする)は、立命館大学、京都大学、国立研究開発法人国立環境研究所、東京農業大学と共同で、パリ協定(*1)が目指す長期気候目標(2℃目標)達成のための温暖化対策が、森林生態系を含む世界の生物多様性に与える影響を評価しました。その結果、2℃目標の達成により、生物多様性の損失が抑えられることが予測されました。
   温暖化を放置しておくと、気温上昇により生物の生息環境が悪化する恐れがあります。2℃目標達成のためには新規植林やバイオ燃料用作物の栽培といった土地改変を伴う温暖化対策が必要ですが、同時に生物のすみかも奪い、多様性を低下させてしまう可能性があります。本研究では、2℃目標達成のための温暖化対策「あり」と「なし」それぞれの場合における将来の生物多様性損失の度合を、複数の統計学的な推定手法を使って、世界規模で比較しました。その結果、対策「あり」で2℃目標を達成した方が、「なし」のままで温暖化が進行してしまった場合と比べて、生物多様性の損失を抑えられることが、世界で初めて示されました。この成果は、2019年11月20日にNature Communications誌でオンライン公開されました。
 

背景

   森林などの豊かな自然環境が育む生物多様性は、人類が生存するために欠かせない様々な恩恵をもたらしています。しかし、過去100年間の土地改変等の人間活動により、地球上の生物多様性は急激に失われてきました。これに加えて、気候変動も生物多様性にとっての脅威となると考えられています。これまでも、エネルギー消費量の削減や再生エネルギーの導入等により気候変動を抑制することは生物多様性の損失を抑えるうえで重要であると報告されてきました。しかし、これまでの研究は温室効果ガスの大幅な削減に必要な新規植林の拡大やバイオ燃料用作物の栽培など、いわゆる温暖化対策による大規模な土地改変による負の影響を考慮していませんでした。温暖化対策がかえって生物多様性に負の影響を及ぼしかねないという可能性については、これまでも議論されてきましたが、それを科学的に裏付ける研究はありませんでした。そこで、本研究は、温暖化対策「あり」と「なし」のそれぞれの場合における生物多様性の損失の程度を、複数の統計学的な推定手法を使って世界規模で初めて比較・評価しました。

内容

材料と方法
   世界中の生物多様性を評価するため、5億件以上の生物分布情報から、5つの分類群(維管束植物、鳥類、哺乳類、両生類、爬虫類)に属する8,428種の生物種を選び出し、情報を整理しました。このデータをもとに、地球規模で生物の生息に適した地域(潜在生息域)を予測するための生態ニッチモデル(*2)を構築しました。完成したモデルに将来の気候や土地利用の条件を当てはめると、その条件に見合った生物の潜在生息域を予測し、地図上で可視化できるようになります。将来の気候条件としては、「2℃目標を達成するための温暖化対策を推進する場合(対策あり)」と「なにもせず温暖化が進行した場合(対策なし)」の2通りを想定しました。さらに、5種類の異なる社会経済シナリオ(*3)を想定し、それぞれの社会経済状態に見合った将来の土地利用変化を予測するモデルと生態ニッチモデルとを統合することで、シナリオごとの生物多様性損失の程度を比較・評価しました。

結果
   温暖化対策による大規模な土地改変が野生生物にもたらす負の影響を考慮したとしても、温暖化対策を積極的に進めて2℃目標を達成することにより、地球規模の生物多様性の損失を抑えられることが、シミュレーションの結果わかりました。
   このうち、5種類の社会経済シナリオのシミュレーション結果を比較すると、持続可能な社会の構築に向けた取り組みを積極的に推進するシナリオ(持続可能シナリオ)で、生物多様性の損失が最も少ないことが示されました。これは、持続可能シナリオで想定した強い土地利用規制等の取り組みが、高い生物多様性を保つ原生林などの自然環境の保全につながるためと考えられました。この結果は、生物多様性保全と2℃目標達成を両立できるかどうかは、社会や経済の将来発展の速度や方向性に左右されることを示しています。

今後の展開

   本研究で開発した手法により、温暖化対策と生物多様性の関係を世界規模で分析することが可能になりました。この手法は、温暖化対策だけでなく、持続可能な社会のための様々な政策が生物多様性に及ぼす影響の評価にも応用することが可能です。今後、今回開発した手法を用いて、複数の持続可能な開発目標を達成するためのロードマップを探索することが可能になります。

論文

タイトル:Biodiversity can benefit from climate stabilization despite adverse side effects of land-based mitigation
著者  :Haruka Ohashi, Tomoko Hasegawa, Akiko Hirata, Shinichiro Fujimori, Kiyoshi Takahashi, Ikutaro Tsuyama, Katsuhiro Nakao, Yuji Kominami, Nobuyuki Tanaka, Yasuaki Hijioka, Tetsuya Matsui
掲載誌 :Nature Communications、10巻 記事番号5240(2019年11月)
https://doi.org/10.1038/s41467-019-13241-y【外部サイトに接続します】
研究費 :(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費課題S-14(気候変動の緩和策と適応策の統合的戦略研究)、2-1702(パリ協定気候目標と持続可能開発目標の同時実現に向けた気候政策の統合分析)

共同研究機関

立命館大学、京都大学、国立研究開発法人国立環境研究所、東京農業大学

用語解説

*1 パリ協定
   京都議定書に代わる2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための国際枠組み。世界共通の長期目標として産業革命以降の温度上昇を2℃以内に抑えるという目標(通称2℃目標)を設定するとともに、これを1.5℃に抑える努力も追及することとしている。

*2 生態ニッチモデル
   生物種の現在の生息地点と気温・降水量・土地利用などの環境因子から、当該生物種の生息適地の存在確率を推定する統計学的手法。

*3 社会経済シナリオ
   地球温暖化とは直接関係しない社会経済の多様な発展の可能性を、シナリオとして記述したもの。本研究では、「持続可能」、「中庸」、「地域分断」、「格差拡大」、「化石燃料依存」という名称の、それぞれ異なる社会経済状態(人口、GDP、エネルギー技術の進展度合い等)を想定した5つのシナリオを用いた。

お問い合わせ先

研究推進責任者:森林総合研究所 研究ディレクター 平田 泰雅
研究担当者  :森林総合研究所 国際連携・気候変動研究拠点 気候変動研究室
   室長 松井 哲哉
立命館大学 理工学部環境都市工学科 准教授 長谷川 知子
国立研究開発法人国立環境研究所 社会環境システム研究センター
   (広域影響・対策モデル研究室)室長 高橋 潔
東京農業大学 国際食料情報学部国際農業開発学科 教授 田中 信行

広報担当者  :森林総合研究所 広報普及科広報係
   Tel:029-829-8372 E-mail:kouho@ffpri.affrc.go.jp
立命館大学 広報課
   Tel:075-813-8300 E-mail:erika-m@st.ritsumei.ac.jp
京都大学 総務部広報課国際広報室
   Tel:075-753-5729 E-mail:comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
   Tel:029-850-2308 E-mail:kouhou0@nies.go.jp
学校法人東京農業大学 戦略室
   Tel:03-5477-2300 E-mail:koho@nodai.ac.jp

図、表、写真等

研究の概要の図
図1.研究の概要:本研究では、温暖化対策「あり」と「なし」、それぞれの場合における将来の生物多様性の損失程度を比較しました。その結果、気温上昇が2℃以内に抑えられる対策「あり」のケース(上)のほうが、大幅な気温上昇によって多くの生物種の生息地が失われる対策「なし」のケース(下)よりも、生物多様性の損失が抑えられると予測されました。

生物多様性への影響予測結果の図
図2.生物多様性への影響予測結果:温暖化対策「あり」と「なし」それぞれのケースについて、5種類の社会経済シナリオのもとで予測した2070年代の生物分類群ごとの潜在生息域の変化割合(%)。変化の要因の寄与度を色分けして示しました(土地改変、気候変動、2つの要因の相乗効果)。鳥以外の多くの生物では潜在生息域は減少しますが、その減少の程度は対策「あり」の場合の方が対策「なし」の場合よりも緩やかになると予測されます。